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始まりの丘 No.8【小説】
情報を整理してみる。
バプテスマホーリークラブで、うちの研究員がワームホールを発見した。それはテレビであったということ。
そのワームホールが、こちら側に来ないか、と語りかけて来ているらしい。
しかも、彼は今、教会に居て、昨日の続きを試そうとしているらしい。
僕は、急いで駆けつけようかと思ったが、敢えて慎重に、他のメンバーにも相談した方がいいと思い、全員に連絡した。
事情を説明すると、割とすんなりと理解してくれたらしく、皆で教会に来てくれるとのこと。
待ち合わせは、一時間後だ。僕は匠にも、それまで待っている様に言っておいた。
「早まらないでくれよな」
僕は焦る気持ちを抑えて、教会に向かっていた。
雨がぽつぽつと降ってくる。今日の天気レーダーは曇りだったはずだが、僕はそれに濡れる覚悟で、傘を買うことはしなかった。
雨足が強くなってくる。
バシャバシャと足元を鳴らして居るうちに、だんだんと心拍数が激しくなってきていることに気づく。
なんだろう、何か嫌な予感がする。
スマホで確認すると、他の地域は晴れになっているのに、教会周辺の地域だけが何故か、雨模様となっているのだ。
にわか雨かな……。何でもなければいいんだけれど。
まるで、この世の終わりみたいな雲だ。
曇天から、雨になるまでに数分も掛かっていない。まるで天が、気を付けなさいと言っているかの様だ。
僕はやっとの思いで教会へと辿り着いた。
教会に着くと、他のメンバーが既に全員、集まっていた。
「久しぶり、匠は教会の中に居るのかい?」
「乃夜、久しぶり。中に居るみたいだぜ、それよりワームホールが見つかったって本当かい? 僕らはそれを確かめに来たんだよ」
すると、星羅さんがそれに口を挟む。
「面白がっては駄目よ、匠くんが危ないかも知れないのよ? ちゃんと事情を聞いていたの?」
他の二人は、もちろん分かっているさ、と高を括っている。本当に分かっているのだろうか? テレビが、こちらに来いなんてことを語ってくる超常現象が起こっているというのに……。
「とりあえず中に入ろう」
僕たち四人は中に入ることにした。
教会の中はひんやりとした雰囲気だ。聖霊が居る証拠なのだろうか? 心が浄化されていく感覚に包まれる。僕は軽く緊張した面持ちで、教会員に事情を説明し、許可を貰う。
「私たちの教会のテレビで、映画の上映を? 宜しいですよ。それは構いませんが、真面目な映画だけにしておいてくださいね」
「分かっています、感謝します」
僕は、教会員に感謝の念を伝える。
聖堂に入ると、匠がそこに待っていた。
「乃夜、久しぶり、待っていたよ。ほら見てくれ、これがそのテレビだ」
僕はそのテレビをじっと見つめた。対して変哲もない普通のテレビだ。これがワームホールなのか? 携挙の為に必要な転移装置だとでも言うのだろうか?
もしも、この話が本当のことだとしたら? 僕たちはこれから天上へワープするということなのだろうか?
「とりあえず、テレビを付けてみてくれるかい?」
僕はテレビのリモコンを見つけ、匠に渡そうとするのだが、何故か手に力が入ってしまって中々渡せない。何か嫌な予感がするのだ、これからの僕たちの人生すべてが変わってしまうような何か嫌な予感が。
僕はその時、初めて、聖堂の十字架が何かを語っているかの様な錯覚を覚えた。
「何を悩んでいるんだ? 大丈夫だよ、俺も昨日試したけれど、あの後も特に体にはなんともなかったんだ……やってみれば分かるって」
匠は強制的に、僕の手からリモコンを奪った。
液晶テレビが光り輝く様にして付く。
「……さあ、どうだ?」
……。
何も、起こらないな……僕がそう思ったその時、異変は起こった。
ザーとモノクロームの画面が現れたと思った束の間、【それ】は段々と異質な雰囲気を醸し出していた。
すると、教会で停電が起こり、辺りが暗くなってきた。
星羅さんの悲鳴が上がる。
それに構うことなく、テレビは僕たちに語りかけてきた。
――。
「――我を信奉する覚悟は決まったか? では、我々の世界に招待しよう。さあ、テレビに向かって、祈りを捧げるがよい」