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始まりの丘 No.12【小説】
僕はただ、茫然自失していた。裕太が死んだ……? 一体どうして? 先ほど見た夢が原因しているのか?
もしかしたらさっきの犬は、裕太を暗示していたのだろうか。
「どうしよう、乃夜くん……私、何にも分からない。こんな時に何もできないなんて」
僕は彼女を宥める。
「落ち着いて、星羅さん。分かった、僕もテレビの中に行ってくる。残り二人の命が危ないかも知れないんだ、僕で役に立てるか分からないけれど……」
「ばか言ってるんじゃないの!」
そうして、彼女は遂に泣き出した。
「ごめん……さっき変な夢を見たんだ。知らない犬なんだけれど、銃を持った、笑ってる奴らから撃たれる夢……」
「そのワンちゃん……供養してあげようね」
「うん……」
彼女を慰めるつもりが、逆に慰められてしまった。情けないな。僕は心の中で、夢に出てきた犬を供養した。
「病院に行って、裕太くんに最後のお別れを言って来ましょう」
「そうだね、一人であの世に行かせるのは、裕太が余りにも寂しいからね」
僕はまだ人の死に目に会ったことはない。こんな時にどうすればいいのか不安だった。だから星羅さんが居てくれて良かった。一人だったら病院にも行かずに、逃げ出していたかも知れない。だから本当に有り難かった。
「病院にはタクシーで?」
「ええ、総合病院に運ばれたみたいだから、そこに行ってみましょう」
僕は分かったと返事をして、タクシーを捕まえた。
たしか、その病院はタクシーで三十分程の距離だ。運転手にそのことを伝え、移動を開始した。
病院に着くと、顔にやわらかな風が吹いた。
人が一人死んだとは思えない、静けさが包む。病院というのは、あの世への入り口にも見える。たくさんの人が毎日、死んであの世に行っているんだ。僕はそんなことを思ってしまった。
久慈川総合病院。受付まで来ると、僕は裕太のお別れに来ましたと報告した。すると、その受付の人は微笑みながらこう言った。
「ありがとうございます。お別れに来てくれるだけでも、裕太くん。喜ぶと思います」
やっぱり一人で逝くのは余りにも寂しいよな……。僕と裕太は決して仲が良い訳ではなかったけれど、こうやって人が一人、亡くなってみると、命の重みというものが分かる。人生というのは実は、とても壮大なことだったんだ。僕はこの歳になってやっとそのことに気がついた。
「人生って……生きてるってことは簡単そうに見えて、実は大変な冒険だったんだね」
星羅さんは、少し驚いた様子を見せてくれた。
「当たり前じゃない、でも……私も身近な人が亡くなった経験は無いから、とても胸に来るものがある。人って簡単に死んでいいものじゃないんだよね」
僕たちは命を軽く見すぎているのかも知れない。皆、もっと命を大事にするべきだ。僕たちは何で普段、こんな安穏として生きていられるのか。病気や怪我にも気を付けないといけないんだ。僕自身ももっと、食べる物にも気を付けようと反省した。
「じゃあ、最後のお別れをして来ましょう」
「はい、行きましょう、星羅さん」
そして裕太の病室へと向かった。