始まりの丘
僕は裕太の亡骸と向かい合っていた。
驚く程、綺麗な顔をしている。死に目にあったっていうのに、そうは感じさせない佇まいをしていた。
「死ぬときは苦しまずに済んだのかな……あの世でも元気でやれよ」
僕は、裕太の新しい第二の旅に冥福を祈っていた。
「裕太くん……」
「牧師さんは連れてこれなかったけど、裕太くんに、プレゼントがあるの」
すると、星羅さんは一冊の聖書を鞄から取り出した。
「私、クリスチャンになることに決めたわ。だからこれから一緒に勉強をしましょう。乃夜くんも聖書を一から学び直すみたいよ」
そうして、聖書を裕太の側に置いた。
「ご冥福をお祈りします」
二人で手を組んだ後、お別れを済ませた僕らは病室を退室した。
「乃夜くんもクリスチャンに戻るのよね? 頑張らないと、天国で裕太くんに笑われるわよ。これから一緒に頑張りましょうね」
「ああ、これを機に信仰を取り戻そうかと思うよ。今から携挙に間に合うかどうか分からないけれど、一生懸命やってみる」
「ありがとう、乃夜くん」
一人の人間をあの世に送り出した後、僕らは信仰を持つ決意をする。僕たちも人生という旅がまだまだ残っているはず。裕太に笑われないようにしっかりやらないとな。
僕らは病院を後にした。
外に出ると、空は綺麗に晴れていた。天が裕太を祝福するように、そしてこれからの僕たちを応援している様な感じだった。
しかし、ワームホールとは何だったのだろうか。あんな出来事は二度とあってはならない、僕はそう思った。
「調査をしてみようと思う」
ぽつりと言った僕の言葉に、星羅さんは、ただ俯いていた。
「調査をすることで何か変わる訳でもないかも知れないけれど、こんなこと二度と繰り返させてはならない。僕がそれをやることで、犠牲者を一人でも少なくするのが、裕太が浮かばれることだと思う……それに」
「ワームホールの原因がテレビだとしたら、もしかしたら……これから人類はそうやって死滅するんじゃないかな」
星羅さんは不思議そうにしていたが、やがて何かに気がついたかの様に、顔をこちらに向けた。
「それから、その獣の像に息を吹き込んで、ものを言うことができるようにさえし、また、その像を礼拝しない者をことごとく殺すようにさせた……黙示録の13章15節」
!!
「星羅さん、それをどこで教えられたの!?」
「聖書から見つけたのよ。私もこのことを少し調べていてね……そしたら、あのワームホールとよく似ていた内容を見つけたから、覚えていたの」
そうか、そうだったんだ、テレビが獣の像だったんだ。やはり、調べてみる必要がある。こんな危険なことに彼女を巻き込む訳にはいかない。残念だけれど、僕はこの問題は一人で研究することに決めていた。
「そう、頑張ってね。私は真面目に聖書の福音書を勉強するわ。ごめんね、あんなことがあった後だから。私……怖くって」
「ああ、当然だよ。星羅さん、ゆっくり聖書を勉強してね、影ながら応援しているよ」
「ええ、頑張るわ」
僕らの研究会は別行動を取ろうと思う。彼女は真面目に信仰一本で、僕は聖書を勉強しながら、ワームホールの研究をすることとなった。
テレビが、獣の像の可能性がある。
僕はその可能性を考えて、慎重に事を進める決意をした。