始まりの丘 No9【小説】
……。
これは一体どういうことだろう? 本当にテレビが声を発している。しかも、我々の世界に招待するとは何のことだ。危ない……これは、早くここから出ないと。
「匠、この声を聞いちゃいけない! 皆も早くここから避難しよう!」
その時、僕の耳から驚くべき言葉が聞こえてきた。
「なんでだよ、祈りを捧げれば、こことは違う世界に行けるっていうのに……なあ、俺は祈るぞ……皆も一緒に祈ってくれないか?」
「俺も祈ろうかな……ここは教会なんだから、悪いことが起こる訳はない気がする。十字架があるんだから、大丈夫なんじゃないか?」
「僕も……この二人の仲間は裏切れない」
そして、なんと仲間の二人の賢一と裕太までもが同じことを言い出したのだ。
「駄目だ、ここは危険だ。分かるだろう? テレビに祈りを捧げろなんて、常軌を逸している。これは悪魔のテレビだ、本当は分かっているんだろう?」
「もし、こんな狂った世界から抜け出せるのなら、俺は、悪魔にでもなってやるぞ」
「匠、俺もだ……。一緒にこの世界から抜け出そうぜ」
「僕も皆に付いて行くよ」
――よく言った。
その願いを叶えよう。
ザッーツ。
テレビが妖しく光ったその瞬間、三人の意識はなくなった。
……どうなったんだ? 二人が床に倒れ込んだ様だ。今のテレビのフラッシュで立ちくらみでも起こしたのだろうか? 今の出来事は幻? 僕たちは夢でも見ているんだろうか?
「乃夜くん……どうしよう?」
すると、その騒ぎに気がついた、教会員が聖堂の中に入って来た。
「どうしたんですか!?」
慌てた様子で近づいてくる。残された、僕らにも何が何だか、分からなかった。
「あの……僕らにもよく分からないんです。停電が起こったと思ったら、テレビが何か、光り出して……フラッシュが起こって三人が気を失ってしまったのです」
教会員は、上着のポケットからスマホを取り出して、耳に当てた。
「大変だ! 救急車を呼ばないと!」
それから、十分もしないうちに救急車は来てくれた。残された、僕と星羅さんは救急車を見送るだけで何も出来なかった。
「乃夜くん……私たち、これからどうしたらいいんだろう?」
「とりあえず、今日は家に帰ろう。じっとしていても仕方がない。三人の意識が回復するまで、待つんだ」
「分かったわ」
そうして、僕らは解散して家に帰ることにした。
後で星羅さんから聞いた話だが、この教会は、周りから異端と呼ばれていて、正当な教会ではなかったらしい。集まる信者も、ちゃんとしたイエスを信じていなかったとのこと。僕もこの教会には今日、初めて来た。中学から信仰を離れていたせいで、そんなことも分からなかったのだ。僕はその時、初めて信仰を捨てたことを、後悔した。
それから数日経ったが、三人の意識は戻らなかった。