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始まりの丘 No.7【小説】

 こちら側に来ないか? そんなことが現実で起こり得るものなのだろうか。僕は、彼が半分冗談で話しているものだろうと、受け止めた。

「そうか、ワームホールはテレビだったのか。そのワームホールは他にどんなことを言っていたかい?」

 自分の話が冗談で言っているのだろうと、僕が受け止めたことに、彼は文句を言ってきた。

「本当なんだって! そのテレビが言うにはな、どうも救いの日は間もなくやってくる。このテレビから、今すぐ霊界に来い。ワープの方法は後から教える。我を信奉せよ……ということを、三度も繰り返して話してくるんだよ」

「それは、明らかに悪霊の声だと思うのだけれど……」

 僕がそう話すと、そんなこと、俺は知らんと、彼はそっぽを向いた。

 テレビから、声がこちらに語りかけてくることがあるのは、僕も前から知っていた。耳を澄ましてみれば分かると思うのだが、一種の心霊現象だ。こっくりさんの上位版の様なものだろう。霊が気づいて欲しいと、テレビから、こちらに語りかけてくることがあるのだ。たまに良い霊なんかが、語りかけてくることがあるのだが、その様なことは稀で、あまり見られない。

 僕は、クリスチャンの前に霊能者でもあった……とは言っても軽く霊を感じる程度の能力があるだけで、これはお祈りをしていけば誰でも身につく能力なのだ。

 クリスチャンの方は祈りの力とも言っている。真心で祈ることで聖霊の御霊と対話していて、自分の聖霊を通じて、主イエスと繋がることができる。このことはクリスチャンにとっては朝飯前のことなのだ。

「それは絶対に悪霊の仕業で間違いないって。この世の中の九十九%は悪霊のいたずらでできた世界なんだぞ」

「だから、そんなこと知らないって、お前も早く教会に来いよ。一緒にテレビと語り合おうぜ……まじかよ、俺にこんな能力があったなんて、まるで超能力者になった気分だよ」

 これだから素人は……僕は、彼の元に行って引き留めようと教会に向かう決心をした。

 スマホに登録してある彼の名前は、石川たくみ。聖書研究会に所属しているとは言っても、彼はほぼ幽霊部員。活動内容は、主に普通の人たちと会い、今の時代、何が流行っているかの調査だ。どんなことに人々が興味があって、関心を持っているか。それらを報告させるだけの活動しかさせていなかったのだが、まさかワームホール? を見つけてくるなんて。

 しかし、テレビがワームホールの訳がないんだよ。携挙とはもっと違った形で来るはずなんだ。僕の考えに寄れば、寝ている間にそれはやってくる。

 眠りに付いている間に、主がやって来て、天上へと連れられる訳だ。幽体離脱の様なものだ。僕は一度、幽体離脱を経験して霊界に連れて行かれたことがあって、そういうことを信じていた。

 眠りの世界から、千年王国に入る訳だ。決してUFOみたいな物体が、空からやって来て、連れて行かれたり、海外のヒーローの様に空を飛んで行ける訳じゃないと、そう考えていた。ワームホールがあるかも知れないというのは、あくまでも、もしかしたら……ということがあるかも知れないからだ。

 もしかしたらどこかに、天上への入り口の扉があって、そこから入ることでテレポーテーションできる。その可能性を除外しなかっただけなのだ。実際は眠りに付いている間にこっそり連れて行かれるのだろう。

 携挙とはその様な形で来ると思っているのだ。人々が安心できる策を、一番に神様はお取りになられる。僕は中学生の頃、そんなことを教会で聞いたことがあった。

「なあ、とりあえずテレビと話すのは辞めよう、今から僕もそっちに行くよ。決して早まらないでくれよな」

 そうして僕は、スマホの通話を切った。

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