始まりの丘 No.10【小説】
毎晩、ずっと同じ夢を見る。
だから、よく眠ることができない。
何か高位の存在が、僕に語りかけて来ている様だ。
「お前は何を眠っているのだ」
……。
「信仰から離れて、生きることがあなたに出来ると思っているのか」
「聖なる者を置いて、他に誰に頼ろうと言うのか」
「起きなさい、あなたの役目はまだ終わってはいない」
……。
新しい朝、空を見てみると、晴れている。だが、僕の心は曇り模様だった。
子供の頃から満たされない毎日。何をすれば僕の心は充足されるのだろうか。
念のため、星羅さんに電話を掛けてみた。だが、やはり彼らの意識は戻っていない様だ。
一体、何が起こってしまったんだ。終わりの日について、研究を進めていたことが悪いことだとでも言うのだろうか。
信仰も持っていないと言うのに……。
何か、妙な夢を見た気がする。確か、誰かが、起きなさいとか言っていた。
「真面目に聖書を勉強しようかなあ」
今からでも間に合うだろうか。果たして終わりの日までに。
今日は、本屋に聖書を買いに行こうと、僕はそう決心をした。
暗い世の中を明るく照らす。そんな魔法があったらいいのに……と思った。僕はシャワーを浴びると、本屋に行く準備をした。
町に出てみると、人々の元気がない様に見える。やはり皆、同じなんだ。
世の中がこんなに悪くなったというのに、人々は一体、何に対して希望を置いているんだろう。夢だろうか、仕事だろうか、家族の為? 僕は一体、何の為に生きているんだろう。
本屋に着き、聖書を買った僕は、久しぶりにレストランでランチを済ませる。そこで食べるご飯は、久しぶりに美味しいと思った。上着からスマホを取り出して見ると、LINEにメッセージが入っている。
匠くんが、夢に出てきたの。苦しんでる様子で、こちらに助けを求めていた。どうしよう……。
僕は、星羅さんと会うことにした。
二時間後……。
「乃夜くん、聖書を買ったんだね。あんなことがあった後だもんね、神さまに祈りたい気持ちにもなるよね」
「うん、ワームホールなんて研究はやっぱり、やってはいけないことだったんだった。神さまの御心をもう一度信じる気になったんだ。一から聖書を勉強しようかと思ってね」
すると、星羅さんは笑って言った。
「それはとても良いことだと思うよ」
「それで、星羅さん。夢の中で、匠が苦しんでいたって言っていた。どういうこと?」
分からない……。と彼女は元気なくしょぼくれた。
「ただね……」
「匠くん、他にこんなことも言っていたの。この世界はアバドンなんだって」
アバドン……? それは奈落の悪魔の名称だ。匠が行った場所に、その存在がいるとでも言うのだろうか。
「もうすぐ、災いが来る……そう、北から災いが来る。アバドンと一緒にイナゴの軍団が、五ヶ月の間、苦しめに行くって」
「その正確な時期は分かるかい?」
星羅さんは少し困った顔をして言った。
「天使が第五のラッパが吹いてしまったら……」
――。
「ヨハネの黙示録」Ⅰつの星が天から地に落ち、底知れぬ所まで通じる穴を開け、底知れぬ所の使アバドンを王としているイナゴ達が大きな煙とともに飛び出し、額に神の印のない人達を襲い、さそりにさされる時のような苦痛を五カ月間与える。