memo|馥郁、雪霽
ふと目にした言葉で覚えておきたいな、と思ったことの長いメモです。
◇馥郁|ふくいく
12月。歯科矯正で東京に行きがてら、大学時代の後輩とお茶をしました。場所は蒲田の東急プラザ4階にある喫茶「市美多寿 CIVITAS」。なんだかホットケーキが美味しそうだね、と思いつきで向かい、おやつどきの14時、少しだけ列に並んでおしゃべりしながら待つことにしました。
はじてのシビタス。店員さんに案内されたカウンターは特等席ともいえる素敵な席でした。目の前には手入れの行き届いたぴかぴかの銅板が広がり、その上でまあるいホットケーキが次々に狐色になってひっくり返っていく……そんな様子をすぐそばで見られるのです。眼鏡をお召しのマスターと思われる方が魔法使いのようにホットケーキを手際良く焼く姿は、まるで絵本の世界のようでした。
メニューを開くと目に飛び込んでくる、お店の看板のホットケーキの写真。そのホットケーキの紹介文の最後には、「馥郁としたホームメードの風味をお楽しみください。」とありました。
ああ、馥郁。馥郁という言葉がこれほどにしっくりくるなんて!この言葉選びのセンスにもうノックアウトです。素敵な素敵な喫茶シビタス。もちろんホットケーキは焼きたてふわふわのいい匂いがしてとっても美味しかったです。もし蒲田にお立ち寄りの際はぜひ立ち寄ってみてください。
◇雪霽|せっせい
9年ほど前、まだ一人暮らしでふたつ目の引越し先の葛飾区に住んでいた頃のこと。どうして購入したのかは忘れてしまいましたが、NHKのカルチャーラジオ講座「漢詩をよむ」のテキストを書店で買って帰ったことがあります。「秋・冬編」ということで、月や雪、お正月などのテーマが続きました。遠くの故郷を偲ぶ月明かり。厳しい寒さに凍える夜。曇天を嘆く人日…… どうしても春夏に比べると篭りがちで、暗い時間が長くなる分しゅんとしてしまうような詩が続くのですが、「冬夜読書」のように書に向き合うには良い時間だと気付かせてくれる詩もあり、冬は気の持ちようだなと感じます。
実は過去の何回目かの引越しの最中、一度このテキスト本を手放しました。結婚したタイミングだったかもしれません。夫の本棚とCD・DVDの類がわんさかあるのは知っていたので、同居にあたり荷物を減らそうとひとり断捨離大会をして、文庫本やらコミックスやらと一緒なさよならしたのです。
でも2年ほど経ってコロナに罹患したとき、ふと「あの漢詩が載っているあのテキスト本が読みたい」と何処からともなく急に欲が出てきてしまい、血眼になってSafariの海で探しました。勿論、正規の在庫は完売。どうにかしてやっと見つけた時は嬉しくて、これからは手放さずきちんとそばに置いておこうと決心しました。ごめんね。
その本を改めて読み直すと、あれ、こんな詩あったかしらと、再び新しい出会いがありました。それが「雪霽」という詩です。
恥ずかしながら、雪霽という言葉を初めて知りました。続いて解説はこうあります。実に光と喜びに満ちた、心がぽかぽかするような情景です。
たった2文字、されど2文字。雪霽。
雪霽とはあの景色の名前なのかと、言葉の輪郭がはっきりとあらわれた瞬間を久しぶりに味わいました。自分が住む地域ではなかなか見ることのない景色ですが、いつか実際に立ち会いたいものです。裏磐梯や美瑛など、いつか行ってみようかな、冬。