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非エンジニアだからこそ要求定義と要件定義は極める[サンプルフォーマットあり]
「あれ?思っていたものと全然違うな……」
「すみません。そもそもこの機能がないと業務が回りません。」
「・・・今言われても・・・」
こういった言葉は、プロジェクト後半やリリース後にたびたび聞かれるものです。一番テンション下がる瞬間ですね。笑
こうした状況になる原因のほとんどは、要件定義の過程でしっかりと機能や仕様、目的が固められていなかったからです。
特に非エンジニアの方であれば、用語や技術面でつまづくことも多く、開発サイドとのコミュニケーションの齟齬が起こりやすくなります。そうならないようにするためにも、要求定義と要件定義の流れと進め方、さらに注意点をしっかり押さえておきましょう。
この記事を読んでほしい人
・初めてシステム開発やツール導入のプロジェクトを担当する方
・非エンジニアで、ITプロジェクトの進め方に不安を感じている方
・要件定義や要求定義の違いがよくわからない方
・ベンダーに何を伝えればいいのか迷っている方
・DX推進担当として、業務要件を整理する役割を担っている方
1. はじめに:要件定義の重要性
はじめて開発プロジェクトを担当する場合、「何から始めたら良いのだろう」「どの程度まで細かく仕様を伝えれば良いのだろう」と戸惑うことが多いかもしれません。普段エンジニアではない方であれば、専門用語もよくわからないし、プロジェクトの進め方にも馴染みがない。そんなときに苦労するのが、要件定義です。
要件定義が不十分だと……
プロジェクト後半に「こんな機能が必要だったのに実装されていない!」と気づく
リリース後に「ユーザーが欲しかった機能とズレている!」とクレームが来る
追加開発や修正により予算オーバー・納期遅延
プロジェクトの失敗と責任問題
多くのプロジェクト失敗要因をひもといてみると、「要件定義を適切に行わなかった」ことに起因していることが本当に多いのです。特に非エンジニアの方は、「ベンダーに任せればうまくやってくれるだろう」と思いがちですが、ベンダー側はあなたの業務内容や意図を100%把握しているわけではありません。「実はシステム上、この機能がないと業務が回らない」という重要な点を伝えそびれていた……なんてケースも少なくないのです。
そこで必要になるのが、「何がしたいか」を言語化し、きちんと共有するためのプロセス。これが今回お話しする要求定義と要件定義です。
2. 要求定義と要件定義の違い
まず、この2つの用語を混同している方が非常に多いです。どちらも「要望をまとめる」作業ですが、それぞれに役割とタイミングが異なります。
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要求定義:
ユーザーやクライアントが「本来実現したいこと(要求)」をあらゆる角度から洗い出す
どちらかと言うと発散フェーズ
やりたいことが明確であるほど、この後の要件定義もスムーズ
要件定義:
要求定義で洗い出された要望を、「仕様」「機能」など開発に落とし込めるレベルにまとめる
どちらかと言うと集約フェーズ
必要な機能や動作条件・業務要件や機能要件が具体化される
このように、要求定義で考えられなかった項目は、要件定義には当然入ってこない(漏れてしまう)ため、とにかく要求定義の段階で「こんなことがしたい」「こういう結果を求めている」という要求を余さず洗い出すことが大切です。
面白いXポストの事例があります。
警察「お前の要求はなんだ!?」
— Jun Harada (@hrjn) December 15, 2021
犯人「五千万円を用意しろ!あと、逃走用の車もだ!」
IT「それは要件だ!要求を言え!」
警察「」
犯人「」
これは要求と要件の違いを表現していて、
正しい回答例は、以下になります。
要求:たくさんのお金をゲットして自由になりたい
要件:五千万円と車
ちゃんとした意味の説明を解説すると以下になります。
要求:機能で解決したい課題や目的
要件:要求を満たすために必要な機能・技術の詳細設計
次から具体的にどのように考えそれぞれの定義するか解説していきます。
3. 要求定義とは?
要求定義では、最終的なユーザーのニーズやビジネス上実現したいことを最大限に発散する作業を行います。具体的には下記のようなイメージです。
どの部署のどの業務プロセスを対象にしたいか
どんな課題があって、どういう風に解決したいか
どのような形で解決策が導かれると最も効果が高いか
ユーザー(現場)の声はどうか
ここではあくまで、「実現したい機能の具体スペックや画面構成」などは問いません。あくまで「目的や解決したい課題」「やりたいこと」の部分を余すことなく洗い出すのが要求定義です。特に非エンジニアの方は「機能面の話はベンダー任せでいいのでは?」と思うかもしれませんが、機能や仕様に落とし込むのは後の要件定義や設計段階の話となります。まずは「ビジネス的・業務的にどんなゴールを目指しているのか」を開発メンバーやベンダーとすり合わせ、可能性のある要求を片っ端から出していきましょう。
要求定義ができれば、あとはベンダーに要件定義から参画してもらって一緒に考えていくことが可能になります。
3-1. 要求定義の具体的な書き方
要求定義は、一般的に以下のようなステップでドキュメント化することが多いです。
要求定義の書き方の基本
「〜したい」
プロジェクトの目的を明確にする
例:「既存の受発注管理システムでは手入力が多く、ミスも発生している。これを自動化・効率化して業務品質を高めたい」
現状の課題をリストアップする
例:「手入力ミスが月にXX件発生」「入力工数が一日あたりXX時間かかっている」「担当者によるオペレーションのばらつきがある」
理想的な要望を列挙する
例:「発注データを外部システムから自動連携したい」「発注先ごとの履歴を瞬時に参照できるようにしたい」「可視化できるダッシュボードが欲しい」
優先度を付ける
発注管理の自動化は必須
その後のデータ分析や可視化はあれば望ましい
必要な関係者やステークホルダーの洗い出し
業務担当者・管理職・経営層・IT部門・外部ベンダーなど、誰がこのプロジェクトに関わるのかを明確化
これらを踏まえて、「私たちは最終的に〇〇のような結果を得たい」「こういうシステムがあれば業務が効率化する」といった要求をなるべく整理し、文章や箇条書きでまとめます。ポイントは「このプロジェクトで目指すゴールや解決したい課題」をしっかり言語化することです。
まずはサンプルファイルのような形式でできるだけ洗い出すことがおすすめです。
3-2. 要求定義を行う際のポイント
ヒアリングをしっかり行う
非エンジニアの方が中心となって要求をまとめる場合、現場のリアルな要望を知らないことも多いです。現場担当者や管理職など、プロジェクトによっては経営層にもヒアリングし、**「本音で困っていること」「実際にどんな作業がどれだけ大変か」**を吸い上げましょう。ここで聞き漏らした課題は後から出てきてしまうので注意です。「こうしたい」という要望とセットで「なぜそうしたいか」をまとめる
「今のシステムの画面が見にくいから、改善したい」という要望だけでは、「どんな画面になれば現場がハッピーなのか」が曖昧です。たとえば「一日の処理件数が多いので、複数の画面を行き来せずに一覧で表示して処理したい」という形で、具体的な背景理由とともに要望をまとめると、後の要件定義で機能化しやすくなります。将来的な拡張の可能性も視野に入れる
現時点での課題はもちろん、今後どんな形に発展する可能性があるのかを考えておくと、長期的にスムーズなシステム運用が可能です。要求定義の段階では「こういう方向にビジネスを伸ばすかもしれない」「データを活用して二次利用を考えている」といった、漠然とした将来像も書き留めておくと良いでしょう。
4. 要件定義とは?
要求定義で明らかになった「実現したいこと」「解決したい課題」をもとに、どのような仕様や機能でそれを実現するかを具体化するのが要件定義です。要件定義ではよく「機能要件」と「業務要件」を分けて考える方法が取り入れられています。この2つを分けることで、技術的な仕様面と、実際の業務フローや運用面での要件を整理しやすくなります。
4-1. 業務要件と機能要件の違い
業務要件とは
業務の流れや運用上の要件を中心にまとめる
「現場やユーザーが、システムを使ってどんな動きをするか」「どの部署がどの情報を扱うか」「どういった手続きや承認フローが必要か」などを言語化する
具体例:
「受注データは営業部が確認し、経理部門へ連携する必要がある」
「顧客情報はカスタマーサポート担当のみが閲覧・編集できる」
「在庫が一定数を下回ったら購買担当に自動通知される」
業務要件は、「システムを導入した結果、現場がどのように業務を進めるか」という視点でまとめるものです。機能に落とし込む前に、「業務フロー全体でどんな動きになるのか」をしっかり整理することで、ベンダーやエンジニアは具体的にどんな機能が必要かを考えやすくなります。
機能要件とは
システムやツールに求める機能・動作・仕様をまとめる
画面単位での動作や、データの流れ、連携処理、アクセス権限など、技術的にどう実装するかを定義する
具体例:
「顧客リスト表示画面で検索・絞り込みができる」
「在庫データは毎朝9時にCSVでインポートし、自動でアップデートされる」
「APIを利用して外部サービスから商品データを取得する」
機能要件は、「業務要件を実現するために、どんな機能が必要か」という視点で整理します。業務上必要なフローを支えるための「画面」「処理」「データ構造」「連携方法」などを細かく落とし込むので、エンジニアがシステム設計を行ううえでの“仕様書”のような役割を果たします。
4-2. 要件定義の具体的な書き方
要件定義書を作成する際には、以下のような項目を意識すると、業務要件と機能要件が整理しやすくなります。
全体概要・背景
要求定義で固めた「プロジェクトの目的」「解決したい課題」を要約
なぜこのシステムが必要なのか、どんなビジネス効果を狙っているのか
業務要件
業務フローや運用ルール
例:受注→承認→発注→検品→請求の流れをシステム上でどこまで自動化する
役割・権限と業務範囲
例:営業担当は案件登録だけ、経理担当は請求書作成と送付など
承認ルートやエスカレーションフロー
例:受注金額が○○万円を超えたら上長に承認を仰ぐ
機能要件
画面仕様
どんな画面があり、どんな情報を入力・表示するのか
データ連携仕様
既存システムとのインターフェース(API、CSV、DB連携など)
アクセス権限
どのユーザー(部署)が、どの画面や機能を利用できるか
エラー処理や例外対応
例:外部システムとの通信が失敗したときにどうリトライするか
非機能要件(あわせて整理することが多い)
セキュリティ、パフォーマンス、可用性、バックアップポリシーなど
「1秒以内に応答してほしい」「24時間365日稼働可能にする」といった具体的な数値目標や条件
制約事項・前提条件
開発期間や予算、利用するプラットフォームの制限、法的規制など
ここで外せない前提を固めておく
優先度と段階的リリースの方針
業務・機能要件のどれを先に実装するのか、どれが後回しか
「絶対に外せない必須機能」と「将来的に導入を検討する機能」を分ける
これらの項目を「業務要件」→「機能要件」の順番で書くことで、実際に業務フローをイメージしながら機能を定義できるため、システムと業務のズレを減らせます。
業務フローの書き方がわからない人はこちらもぜひご覧ください。
4-3. 要件定義を行う際の注意点
業務要件を曖昧にしない
たとえば「在庫の確認は担当者が朝イチでExcelに手打ちしている」という運用があるなら、そこをどうシステムに置き換えるのかを明確にする
業務の現場を知らないと、要件定義の時点ですでに齟齬が発生する恐れがある
機能要件は可能な限り定量化する
「なるべく処理が早いほうがいい」ではなく、「同時接続ユーザー100名でも2秒以内に画面が表示される」のように数値を入れる
パフォーマンスやセキュリティについても具体的に書くと、ベンダーが正確に見積もりや設計をしやすい
業務要件と機能要件の優先度をはっきり分ける
すべてを一度に叶えようとすると、工期も予算もかさむ
「この業務は最優先でシステム化しないと意味がない」「この機能は最低限必要」「この機能はできれば欲しい」など、ランク分けして合意を取る
ベンダーやステークホルダーとの認識合わせを欠かさない
書面で伝えただけでわかった気にならないこと
レビューや打ち合わせを定期的に行い、「この部分はこういう仕様で大丈夫ですか?」と確認していく
5. 背景共有と業務理解が何より大事
要求定義や要件定義を進めるとき、「なぜそれが必要なのか」という背景を正しく共有することが大切です。特に非エンジニアの方は、「技術的なことはよくわからないし……」と遠慮してしまうことがあるかもしれませんが、業務面での“なぜ”を誰よりも詳しく言語化できるのは、現場やビジネスを知るあなた自身です。
「この業務はどんな経緯で生まれたか」「何のためにやっているか」を説明する
「どの部署がこのシステムを使って何を達成したいか」を明確にする
「将来的にはどのような拡張・利用方法を想定しているか」を伝える
こうしたビジネスや業務の背景があると、ベンダーもより適切な設計やアドバイスをしてくれます。逆に言うと、背景を共有できていないと、単なる「言われた通りに作りました」だけのシステムになってしまい、後から「こんなはずではなかった」という事態を招きやすいのです。
6. 非エンジニアならではの注意点とコミュニケーション術
非エンジニアの方が要件定義をする際に特に気をつけたいのは、技術的な制約や仕組みを知らないがゆえに、ベンダーと齟齬が生まれやすいということです。以下の点を心がけるだけでも、かなりコミュニケーションロスを減らせます。
専門用語にとらわれすぎない
技術的な詳細はベンダーやエンジニアの領域ですから、無理に理解しようとしすぎて時間をかけるよりは、「こうしたい」「これだけは譲れない」を明確に伝えることに力を注ぎましょう。わからない言葉が出てきたら素直に聞く、という姿勢でOKです。プロトタイプやモックアップを活用してイメージを共有する
画面設計などは口頭や文章だけだと誤解が生じやすいです。ExcelやPowerPointなどでも構わないので、ざっくり画面イメージを描いてベンダーに見せると、「こういう流れで操作するのか」と一発で伝わることがあります。何度もすり合わせを行い、小さなステップで合意を重ねる
要件定義書を完璧に作ろうとしても、最初は難しいものです。むしろ、ざっくりした段階でレビューをもらう方が、やり直しが少なくなります。非エンジニアの方は最初から細部にこだわるより、大まかな流れやポイントを整理して、段階的にブラッシュアップしていくスタイルがおすすめです。「ベンダーを信用しすぎない」態度を適度に持つ
決して悪い意味ではありませんが、ベンダーは専門家であるために技術面は任せられます。しかし、業務面の専門家は自社側(あなた)です。ベンダーは仕様を決める上で、可能な限り要望をヒアリングしてくれますが、最終的に業務や運用で困らないかどうかを判断するのはあなたです。「こういう使い方をするんですが、その場合って対応可能ですか?」と逆に質問してみましょう。機能だけでなく、コスト・納期・運用体制もセットで考える
どんなに素晴らしい機能でも、納期が大幅に延びたり、運用保守費が高すぎたりすると、ビジネスとして成立しません。非エンジニアの方がプロジェクトリーダー(または担当)になる場合、こうした業務面とコストやスケジュールのバランスを見る視点が大切です。
7. まとめ:非エンジニアだからこそ要求定義と要件定義を極めよう
最後に、本記事のポイントをおさらいします。
要求定義と要件定義は違う
要求定義:発散フェーズ。「やりたいこと」「課題」「背景」を余さず出す
要件定義:集約フェーズ。要求を技術・仕様に落とし込み、具体的にどう実装するかを定義
要求定義の段階でしっかり洗い出せなかったものは、要件定義には入らない
「こんな機能が必要だった」ことを後から気づくと、プロジェクト全体に大きな影響が出る
とりあえず最初に全ての要望をリストアップし、優先度付けすることが大事
非エンジニアでも、業務プロセスや背景を理解し、しっかり言語化するのが役割
ベンダーは「どうやって」作るかの専門家。あなたは「何を」作るか、「なぜ」必要かの専門家
業務知識や課題をしっかりとヒアリングして把握し、要件定義書に反映する
コミュニケーションを重視し、小さく区切って合意形成を進める
ドキュメントは作って終わりではない
レビューをこまめに行い、何度もすり合わせることが重要
最終的な納期、予算、運用体制まで見据える
機能だけにとらわれず、実際に導入した後のサポート体制やコスト、拡張性なども考慮
非エンジニアの方だからこそ、システム開発やツール導入の際に「技術的なところはよくわからない」と感じる瞬間があるでしょう。しかし、その立場だからこそ、実際の業務課題をしっかりと認識しており、どんな場面でシステムが役に立つのかを一番わかっている可能性が高いのです。ベンダーやエンジニアにとっては、あなたのビジネス面の知識こそが大きなヒントになります。
プロジェクトが成功するかどうかは、要求定義と要件定義をどれだけ丁寧に行ったかで大きく左右されます。記事の冒頭にあったような「思っていたものと全然違う!」や「すみません、この機能がないと業務が回りません!」というミスマッチを起こさないためにも、要求定義と要件定義をしっかり理解して、非エンジニアならではの強みを存分に発揮していただければ幸いです。
本記事が、システム開発やツール導入プロジェクトに挑む皆さまの助けとなり、スムーズなプロジェクト進行と質の高い成果物を得る一助になれば嬉しいです。何かのプロジェクトを推進する際には、ぜひ思い出してみてくださいね。あなたの活躍を心より応援しています!
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