担当が炎上した
担当が炎上した。
原因は担当にはない。というか完全に巻き込まれただけだった。でもその炎はびっくりするほどあっという間に燃え広がった。
炎上のきっかけになった暴露配信。その次の日に三峰結華は事務所に来ていた。その日、本当はオフのはずなのに勢いよく開いた扉はやけに重い音がした。
「あれ?今日レッスンの日じゃなかったけー?」
いつも通りに見えるように皮を被った結華の目は赤く腫れていた。
「今日はおやすみだよ〜」
「あれ?そうだっけ??」
結華の返答は白々しいように思えた。
「せっかくの休みなのによかったの?最近オフなかったでしょ」
あえてわざとらしく返してみた。
「いやーだって忘れてたし?今日休みってこと。でも家に1人もつまんないし来てよかったかも!すぐりちゃんと話さなきゃいけないこともあるでしょー?、、、それに、、、これからオフの日増えちゃうだろうし、、、。」
ほらやっぱり。結華のことだ。昨日あったことも全部知っている。知っててここに来てくれた。
ちょっとだけ安心したのはきっと結華が結華自身のことを考えているのがわかったからだ。
助けを求めてくれているような気がして、ほんの少し嬉しかった。
でも今はそれどころではない。
「そうだね。じゃああっちで話そっか。」
そう言って私は1番遠い第2会議室を指さした。あんな胸糞悪い話を巻き込まれた本人とするのはやっぱり抵抗があったのか、少しでも遠ざけようとした自分にムカついた。
黙ってついてくる結華の足音はいつもより静かでいつもと違う靴を履いていることに気がつく。その靴はシンプルなデザインのランニングシューズだった。もしかしたら事務所に来るまでの間ランニングをしていたのかもしれない。そんなことを考えながら第2会議室の扉に手をかけた。
対面で結華と話すのは久々な気がして少し照れくさかった。でも空気は明らかに重苦しくて、その空気を変える方法を私は探していた。
先に口を開いたのは結華だった。
「すぐりちゃん。もし私のせいで事務所への仕事が減ったり、グループ仕事が減ったりしたら迷わず私を切っていいから。
たとえ私が悪いことをしていなくても私とあの子は連帯責任だし、私の今までの態度も問題だったんだと思うし。
直接的仕事が減らなくてもイメージとかは確実に下がるし、汚れちゃうから。
だから、迷惑をかけてごめんなさい。」
予想以上だった。メンタルがあまり強くない結華のことだから落ち込んでいるだとうと思っていた。だけどアイドルを辞める覚悟まで持ってきたなんて。私はどう声をかければいい?どう返したって結華の覚悟を潰すか結華の未来を潰すかの2択になってしまいそうで喉に力が入らなかった。
少し間をあけてわたしは口を開いた。
「結華は、、、結華はどうしたい?
私はね。結華を辞めさせる気はないよ。アイドルの呪いからはまだ解いてあげない。
だってアイドルの三峰結華、大好きだから。
私のわがままになったとしてもこの気持ちは変わらない。偉い人から指示されても聞く気ないから。
、、、もちろん結華が本気で嫌がったら考えるけどね」
「すぐり、、ちゃん、、、」
驚いたからか、安心したからか、結華は涙目で強ばっていた表情筋もすっかり緩んでいた。
「結華が思っている以上に私は結華が大切だし大好きだよ。
そんな簡単に首を切ろうなんて思わないし、しないから。」
あれから仕事はたしかに少し減った。ネットでの誹謗中傷もひどく、結華にはネット禁止生活をさせてみた。誹謗中傷されるよりも辛そうにしていたが、毎日事務所に来させてひたすらレッスンをさせた。結華それに対しては何も文句を言わないで今まで以上に頑張っていた。
結華はアイドルをやめようとまでした覚悟を、次ファンと会う時までにもっとすごいアイドルになるという覚悟に変えていた。
その覚悟が変わったからか、彼女の声は今までと違う気がした。
改めて、希水さん。
これからよろしくお願いします。