2018年日本、世界、中国映画興行ランキング振り返り。TOP20を見てつらつらと。
2019年始から早くも2週間が経ってしまい遅くなったが、昨年の映画興行収入ランキングの「日本」「世界(主に北米)」「中国」の振り返りを備忘録的に以下行っておこうと思う。(今年2019年の映画中心のエンタメ展望も書くつもりが以下長くなりすぎたので別にしたいと思う)
2018国内興行収入ランキング
まずは2018年の日本国内の映画興行収入ランキングを見てみる。過去の映画興行収入もまとめまっている映画ピクシーンというサイトを参照。(20191.13更新)
現状こちらのランキングだと第一位は「劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」なのだが、2018年劇場公開映画で最大ヒットとなりそうなのは「ボヘミアン・ラプソディー」である。現状84億円を突破し、先日のゴールデングローブでの作品賞&最優秀男優賞の受賞、更に今後のアカデミー賞受賞の可能性も含め、国内興行収入は100億円はほぼ確実の様だ。
米国では日本国内の公開より1週早く封切られ初週で5000万ドル超えの初登場1位となっていたこともあり、自分も初日が多忙だったので2日目朝に見に行ったのだが、各キャストの熱演、更にラスト21分間の高揚感はすさまじいものを感じた。音楽との相乗効果による感動の増幅は他者と共有したいという衝動につながるのが人間の心理であるからして、自分も気がついたらFacebookに感想を投稿していたのを記憶している。事前の米国での大ヒットや日本でのクイーン人気、映画を見るお金と時間を有する50−60代世代を中心に根こそぎ動員しうるコンテンツだと感じ、SNSがまだ浸透しきっていなかった2009年故マイケルを描き大ヒットした「This is it」が国内53億円という結果からも同程度は行くかもと感じた。が、100億円とはまさかという域である。
ちなみに北米を除いた本作品の世界興収には、東アジアのクイーンの根強い人気が相当に寄与している様だ。以下の記事は日本での興行収入が69億円の時点で、実は韓国はそれを上回る75億円の興収を積み上げていたと報じており、人口比では韓国は日本の半分以下であることを考えると彼の国でのこの映画の熱狂は相当であると予想できる。
韓国でのクイーン人気を伝える記事を見ると、日本と同様に10-20代の若い世代にも支持されているようであった。インスタ上でフォローしていた東方神起のチャンミンがボヘミアン・ラプソディに関する投稿を見たのを思い出したが、こうしたSNS上でフォロワーを多く持つK-popアーティストからの発信も本作の韓国での成功に寄与しているのかもしれない。音楽を生業にしている彼らだからこその影響力があるのではないだろうか。
色々な説が出ているが、個人的にこの作品が日本でヒットした(興行的な成功を収めた)直接的な背景は、
①普段映画館で映画を見ない人たちを連れてきたこと
②リピート視聴が多いこと
の2点に尽きると思っている。
俳優の熱演、素晴らしい音楽、体験型施策のスピード感ある展開、などの要素が上記の①、②に寄与している、という構造の様に感じている。これらの内容の記事はふんだんに既に出ているので割愛。
しまった。
気がついたらほとんどボヘミアン・ラプソディについての投稿になってしまった。。!
さて、他の作品も見ていくとしよう。
冒頭で触れた「コード・ブルー」はフジテレビで2008年から始まり3クールに渡り放送されたドラマの劇場版である。当時から中心キャストは変えていないことからも、10年という歳月をかけて、役柄も俳優本人も成長していく過程がよりリアリティーを持って感じられる構造になっていると感じる。自分は劇場版しか見られていないが、涙を誘う人間ドラマを多層的に畳み掛ける所に少し泣けてしまった。いずれにしろ、民放ドラマから92.3億円という巨大ヒットは近年類を見ないレベルであり、快挙といって良いのではないだろうか。
そして、近年、年を追うごとに興収を増加させ、気がついたら昨年は邦画No.1ヒット、最早国民的コンテンツという風格を身にまとう「名探偵コナン - ゼロの執行人 - 」が第三位。作品としては、電子レンジなどの家電製品がインターネットに繋がり、これらがハッキングやテロリズムの対象として危険を孕んでくる可能性を「IoTテロ」として描き、現代的テーマをうまく取り入れた作品に仕上がっている。今年も初週から大ヒットスタートを切り、3週目には「アヴェンジャーズ インフィニティーウォー」の初週1位を阻み世界的にも注目を浴びたり(以下リンク参照)、本作で大きくフィーチャーされたイケメンキャラの「安室透」が何かと話題になり(ex. 本名の「降谷」のハンコが爆売れ)、ついにはツイッター上で #降谷零を100億の男にしようの会 なるハッシュタグまで爆誕する始末であった。
前作の「同〜から紅のラブレタ〜」は68.9億円だったが本作は更に約20億円も積み上げるとは、前前作「同〜純黒の悪夢〜(63.6億円)」の伸び率からすると、すごい勢いである。。
個別作品の振り返りはこのぐらいにして、ベスト20の全体として目につくのは、例年とあまり大きな傾向は変わっていないと思うが
①音楽との相乗効果が高い作品のヒット
②アニメ作品の根強い人気
などだろうか。
①は既に詳述した「ボヘミアン・ラプソディ」「グレイテスト・ショーマン」「リメンバー・ミー」などが該当すると思う。これらの作品はいずれも音楽が単なるBGMとして映画を彩るわけではなく、「音楽そのものがストーリーに組み込まれた」作品であり(登場人物が歌う・踊る・演奏するなど)、だからこそ実際の登場人物が音楽を奏でるときにより一層見る者の心を強く動かす、結果的にSNSでの共有、共振も増加、動員にも寄与するのではないかと思われる。(ストーリーと音楽のリンケージが強い一昨年の「君の名は。」、昨年の「ララランド」「美女と野獣」なども類似作品と呼べるだろう。)
②は20位内にはアニメ作品は計9作品とほぼ半分を占め、(厳密に数えて無いが)例年と変わらず安定した動員を果たしている。(コナン、どらえもん、ポケモンはシリーズ例年ものではあるが) 映画作品に限らずだが、定額制サービスの浸透により単価安く作品を楽しめる土壌が広がり、SNSの普及によるコミュニケーション活動そのものとの時間の奪い合いに、全てのコンテンツが晒される中、既にファン(=熱量の高い顧客)がいる、ということは絶対的に優位なことであり、着実に例年結果を出していることはそれはそれで素晴らしいことだと思われる。
2018全世界興行収入ランキング
続いて、全世界の興行収入(TOP20)を見てみたいと思う。
※ここから桁数が変わってくるのでご注意。
トップは、「アヴェンジャーズ インフィニティー・ウォー」。全世界興行収入は20.48億ドル、つまり1ドル=100円ざっくり換算で約2050億円。2位に約6.5億ドルも差をつけて堂々の1位である。横のDomesticは北米の比率と収入だが、北米だけでも6.78億(約700億円)ドルってすごい。
※こんな世界中の人達を熱狂させる同シリーズの原作マーベルコミックスを生み出されたスタン・リー氏が昨年末亡くなられてしまったこと、改めてここに記すと共にお悔やみを申し上げたい。(共演した様々な俳優たちとの写真の載った記事と、アメコミライターのスピ氏の追悼の思いに溢れる記事を貼っておく)
以後、10億ドル超え作品が「ブラック・パンサー」「ジュラシック・ワールド」「インクレディブル・ファミリー」、10億ドル未満が「アクアマン」「ヴェノム」「ミッション・インポッシブル」と続く。いずれも1つの作品で興行収入が1000億円を超える規模とは、改めてすごいものだ。
このランキングは世界興行収入とはいえ、未だにやはり、北米の占める割合(全体的にいずれも3割超える程度)がまだまだ高いということに気づく。そんな中、注目すべきは全体の興収でも2位につけ、北米比率も50%以上と高い「ブラック・パンサー」だろうか。
この作品は「黒人スーパーヒーローを主役とした」最初のメジャー映画であり、主要キャストがほとんど黒人、監督のライアン・クーグラー(なんとまだ31歳!)以下主要スタッフも同様で、劇中の大半は「アフリカの架空の国」を舞台としている…という様々な点で異例づくめな作品だった。
結果的には2018年の全米興収ランキングでは一位となる快挙を成し遂げ、歴代全米興収ランキングでも、あの「タイタニック」を、更には「アヴェンジャーズ インフィニティーウォー」を抜いて第三位、なのである。。どれだけすごいんだ、と正直理解が追いつかないレベルだ。(ちなみに世界歴代では第9位。)
自分自身は、本作の全米公開時期の1月末にグラミー賞を受賞した「ケンドリック・ラマー」の楽曲使用を知り、更にTwitter上で回ってきた以下の黒人キッズ達が映画をクラスで見に行くことに大興奮する動画を見て「これはやばいことになるのでは」となんとなく感じたのを覚えている。ただ、結果的にやばいでは足りない程のセンセーショナルをもたらしたことにただただ驚きである。
本作の成功については幾つかの記事で素晴らしい解説がされている。
『ブラックパンサー』の成功により、ファン層の中心は白人の少年たちだという神話に終止符が打たれつつある。つまり、作品をヒットさせるためには白人の若年層を念頭におく必要がある、という図式は崩れたのだ。
公開初週の勢いは、観客が黒人のスーパーヒーローに喜んでいるという単純なものではありません。人々は黒人のスーパーヒーローを起用した作品でも大成功を収めることができるというメッセージを、映画の製作者たちに伝えようとしているのです
以下の方が指摘するように、映画の最後でワカンダの王である主人公ティ・チャラが世界へ宣言する、特定の人種に閉ざされない高邁な理想に対してこそ、黒人だけでなく全世界の人々が共感した、結果ここまでの支持を得られたのではないかと個人的には感じている。
※ちなみに、全米公開当時、まさにアメリカから日本に訪れた白人の男性と話したのだが(彼は黒人の友達も多く)「自分も黒人カルチャーが好きだし、この映画は彼らのカルチャーを礼賛してくれていて、自分も嬉しくなって好きなんだ」と言う印象に残っており、単純に黒人層だけに刺さったわけではないことを感じたのを覚えている。
ちなみに、TOP20には入っていないが、37位には、日本でもスマッシュヒットした「クレイジー・リッチ」という全キャスト、及び監督ががアジアンアメリカンで占められた作品もランクインしている。この作品も全米で1億ドル以上の大ヒットを記録している。
SNSという個人が情報を拡散し、自分のストーリーを伝えられるメディアが広まった今、「ブラック・パンサー」にしろ「クレイジー・リッチ」にしろ、ある種特定の人種やセグメントに深く根ざした作品を描くのはマーケティングターゲットとしてのボリュームは少ないとしても、そうした特定層に根ざすからこそ強い共感を生むことができ、更にそれが「それ以外の層にも共感できるメッセージを持つ」時にこそ、新しく、大きなムーブメントが生まれてくる、むしろ人種のるつぼと言われる全米では(トランプの真逆の動きも影響あるだろうが)そうした動きが既に生まれているのだな、と強く感じる。まして、人口減少が確実であり、今後さらに日本以外の人たちと交わる機会を持つであろうこの国においても、こうしたエンターテインメントが人種や信条・価値観を超えて対話を促していくことを真に願うと共に、そうした作品が必要となっていくのだろうと強く感じる。
2018中国興行収入ランキング
はて、やっと中国のランキングだが既に5000字近くである。。
ここに関しては、中国語をこつこつ勉強している身ではあるが、背景理解が足りていない所もあるので表から読み取れそうなことをざっと上げてみたい。※仮説込みなので一部違う所はあるかも
まず全体を見ると、Distributorが「Disney」「WB」となっている6作品を除いた、14作品は全て(多分)国作=中国作品と見てよいだろう。理由の一つとしては中国は海外作品の輸入に関して規制を敷いているのが大きい。
~2011年まで: 22本
2012年~2016年: 34本
2017年: 44本
例外: 中国企業が中国における版権を買い取った場合は、制限対象外。数として年間おおよそ30~40本
そんな中、いずれも2018年の中国のお正月=春節にあたる2/16に公開されている「Operation Red Sea」「Detective Chinatown 2」がそれぞれ5億ドル超えを記録してトップ2となっている。いずれの作品も先程見た世界興行収入ランキングの13、14位にもランクインしており、ほぼ中国のみ(台湾・香港も含むかも)の興収と見てよいだろう。
また注目作品として、ワーナーブラザーズのヒーローシリーズ「DCコミックス」を原作とするタイトルである「アクアマン」が公開12月初週とわずか1月しか経過していないにもかかわらず、既に中国の2018年公開映画ランキングの8位に入っているのは驚異的だと感じる。
ちなみにだが日本の映画史上は2017年で2285億円であるが、中国の映画マーケットは2017年で約650億元、1元=16円換算で約8960億円と約4倍であり、中国ランキングだけで見ても20作品全てが1億ドル=ざっくり100億円を超えることを考えると(2018年公開映画で日本で100億円超えるのはボヘミアン・ラプソディのみ。)、表現規制や輸入規制はあれどいかに大きい市場かがわかるだろう。
2018年は日本と中国の間では「空海」という作品も日中共同で製作されている。興行的には双方の国でまずまずの成績を残しているが、取り組みとしては非常に意義のあるものであったように思う。日本では阿部寛をキャストに据えた「阿倍仲麻呂」や染谷将太が演じた「空海」をプロモーションでは押し出していたが、中国側ではタイトルは「妖猫传 - The legend of the Demon Cat - 」と全く異なる押し出し方を展開した。こうした所にまだまだ合作作品の難しさはあると感じざるを得ない。
最後に
長くなった、非常に。。2019年の劇場映画、更にはエンタメ領域全般に関する展望も書いてみようとは思ったものの、それまた長くなる気がするので別にしたいと思う。駄文長文にお付き合い下さりありがとうございました。