イレギュラー続きで、当たり前の世界へようこそ。
コンロに火をかけたタイミングで、足に全力タックルされる。何とか体制を立て直してふと見ると、ボックスティッシュの中身が全部出されている。料理することを諦めて紙の残骸を拾い集めていると、愛用のおもちゃが動かないから何とかしてくれと呼ばれる。
食事を始めれば、米粒はお皿の外や床に豪快に飛び散る。踏み潰されて糊状態になった米粒を這いつくばってつまんでいると、今度は頭上からお茶をこぼされる。飲み物を片付けていると新しいお茶のお替りを要求され、お茶を用意している間におかずで汚れた指をふけと騒がれる。おもらしか見分けがつかないほどズボンは湿っていて、さらさらの髪の毛はごはんつぶが付いてカピカピになっている。
こんな小さな出来事が乳幼児期は一日のうちに連続して起こる。けれどそれに対応するのは、親歴ヒトケタ未満の新人だったりする。
子育ては、常に予想の斜め上を行くイレギュラー案件ばかりだ。状況を素早く見極め、優先順位を付けて速やかに処理する能力は次第に磨かれる。
あれがダメ、これもうまくいかなかった、じゃあこれはどうだ、いいけど時間がかかるからこっちにしてみよう、またうまくいかなかった。高速のPDCAを無限に繰り返して、次第に大人から親になっていく。
【世の中は、自分の都合などまるでかまってくれないのだ】
そう教えてくれたのが、育児の世界だ。
先読みをする、早く行動する癖が付いてくる、ダメ元精神、相手の意思や都合を尊重する気持ち、確実なことなんてもう何もないよね、できないのなんか当たり前じゃんアッハッハと達観した気持ちになってくる。
人間としての許容範囲は、自然に広がる。
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育児は、ビジネスに役立つ学びが多いと私は思っている。
もちろん、カワイイも大変も嬉しいもビックリも全部詰まっているけれど、こんなにビジネスに通じる学びがある世界って、ちょっとないんじゃないだろうか。学生時代のアルバイトや派遣から始まって、老舗企業、ベンチャー、フリーランスとそれなりに多様な仕事や働き方を経験してきたつもりだけれど、そんな経験をひょいっと飛び越え、学べることが毎日、毎時、毎秒たくさんあるのが「育児」だ。
ささいな違いに気付くこと。他者を許すこと。自分に余裕を持つこと。抽象的な表現は自分以外の人には全然通じないこと。怒りで誰かは動かせないこと。失敗するのは当たり前のこと。相手に与えた態度はそのまま返ってくること。
ぜんぶぜんぶ、育児をする日常から私が学んだことだ。そして不思議なのだけど、それらはいずれもビジネスに通じる内容ばかりだ。考えてみれば仕事はあくまでも生活の延長線上にあるもので、毎日育児をしている人の方が色濃く見えているビジネス理論だってあっても不思議ではない。
育児のほんわかで激動のエピソードから私が見付けた、とびっきりの役立つ学びを、真面目な顔をしている全てのビジネスマンへ。