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彼女にとってのヨーグット。
3歳の娘は生後7か月からの、筋金入りの便秘である。
よく便秘には食物繊維とか、水分を取るとか、好き嫌いなく何でも食べるのがいいと言われているけれど、娘は薬がないとダメなレベルなので飲食ではどうにもならない。かかりつけ医によれば乳幼児の便秘は原因不明であるともされていて、我が家では毎日形状を記録する排便表を付け、薬で便秘コントロールをしている。
「それでも何とか楽にできれば」というのが親心であり、私は何かと娘にヨーグルトをあげていた。どの乳酸菌が娘のお腹に合うかは分からないので、色々な種類を試してはあげ、試してはあげ……
最初はあまり食べてくれなかったけれど、今では朝起きると「えっとねー、ヨーグット!」と朝食メニューにリクエストするほどのヨーグルト好きに育った。
持病の便秘は改善の兆しを見せないが、ヨーグルト好きなのはいいことだ、多分。
とは言え、「いらないのー」と口も付けられず、パパやママの腸内に納まることも多かった。長年試行錯誤した研究の結果、彼女にとってのヨーグルトの条件は、以下だった。
・白い
・蓋付きの小さな容器に入っている
・甘い
例えばコスパを重視して、家族みんなで取り分けできるような大型パックを、お皿に入れて出してみたことがあった。
ホテルビュッフェや旅行の宿泊先で、手間暇かけて作られたであろうヨーグルトを持ってきたこともあった。
子ども用に良かれと、フルーツやアロエ入りをスーパーやネット通販で買ってみたこともあった。
健康志向の豆乳ヨーグルトに、ハチミツをかけておいしそうに出してみたこともあった。
いずれも、口を付けてもらえなかった。
彼女にとっての「ヨーグット」は、4個入とか6個入くらいのサイズ感の、市販の小さい容器に入っていて、白くて、もちろん甘くて、フルーツのかけらなどの混入物は一切認められなくて、オーソドックスなプレーンタイプなのだ。例外は認めず、そういうヨーグルトが好きなのだ。
私はせっせと3つの条件を満たすヨーグルトをあげ続けた。
☆
ある朝、パパのヨーグルトを娘が見つけた。
パッケージにはいちごが描いてある。いちごは娘の大好物だけど、中身はいちごではなく、いちごヨーグルト。
甘いけれど、色はピンクで、いちご果肉入り。娘にとってのヨーグルトの3条件を満たさない。
いちごヨーグルトは、いちごパッケージを見つけてスーパーで大騒ぎした娘のおねだりに根負けして、パパとママ用になると知りつつ買ったものだった。
「娘ちゃんも、いちごたべるー」
娘ちゃんは食べないと思うよ、とパパが蓋をベリッと開ける。
スプーンの先に取り、口まで運んでみる。
ぱくっ
(食べた!)
私も夫も、顔を見合わせた。
「食べるなら、全部あげるよ」
娘用のスプーンを出して渡してみると、彼女はバクバク食べ、底に残ったヨーグルトは集めてあげるときれいに食べ尽くした。
☆
パパが好きなのは、飲むヨーグルト。
ママが好きなのは、ヨーグルト味のお菓子やお酒。
昨日までの娘が好きなのは、白くて蓋付きの小さい容器に入っていて甘いヨーグルトだった。
そうか、まだ3歳で、もう3歳だもんね。「ヨーグット」にも色んな種類があることを、今日認識できたのかも知れない。これから色んなヨーグルトがあることを知っていって、自分の好みの味をたくさん増やしていけるといいね。
鉄のヨーグルト3条件が嘘のようにきれいにぺろっと食べて、彼女はいつもと変わらず保育園に出掛けていった。
娘にとっての、「ヨーグルト」の選択肢が広がった朝だった。
明治ブルガリアヨーグルト、芳醇いちご味。
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