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【全文無料】掌編小説『溜まっていく』柳田知雪

 コンビニスイーツはいい。
 近くで買えるし、カフェで食べるより量も値段もお手軽だ。そして今日も新作のショコラプリンを見つけ、夕食のデザートにしていた。
「また食後にデザートかよー。脂肪溜めて冬眠でもするつもりか?」
「自分のお腹を見てから言ってくださーい。あ、ふたつ買ってきたから食べてもいいよ」
「もう、歯磨いたからやめとく」
 まぁ、その答えを期待してこのタイミングで食べ始めたんだけどね。もうひとつは明日の私のデザートに決定です。
 でも、私だって別に太りたいわけじゃない。甘いものも特段好きというわけでもなかったのだけれど、ここ最近は甘いもので一日を締めないと気が済まない衝動を抑えきれずにいた。
 食べることで無意識のうちにストレスの発散をしている。と、先日どこかの情報番組で見て、自分にも当てはまるような気がしてドキリとした。
 じゃあ、私のストレスって何?
 ココア色のプリンを掬いあげながら首を傾げた。すると、脱衣所から旦那の声が届く。
「ねぇ。洗濯機の下、めっちゃ埃溜まってるよ」
「あー……明日、掃除しようと思ってた」
 しまった。つい正直に答えてしまった。
 案の定、彼は少し不機嫌そうに声を低くする。
「明日って、気付いたならその時に掃除しないと」
 ほら来た。じゃあ、お前がしろよ。
 と、喉元まで出かかった言葉にプリンが蓋をする。甘さの薄れたプリンを咀嚼して、適当に相槌を返した。言うだけ言って気は済んだのか、彼がお風呂に入っていく音がする。
 気付いた時にやれ。という理論でいくと、おそらく家事はほぼ私ひとりでやることになるだろう。テレビの上に溜まった埃を掃うのも、窓の桟に溜まった汚れを拭うのも、たまにしか出ない缶ビンのごみ出しも、その他エトセトラエトセトラ……
 私、専業主婦じゃないんだよ? 隣の部屋でテレワークしてるの、知ってるよね?
「あ……」
 気付けばプリンはなくなっていた。考え事をしていたせいか、食べた気がしなくて冷蔵庫からもうひとつのプリンを取り出す。そして、震えるプリンへとスプーンを突き立てようとした、まさにその時……
「ねぇ! ボディソープの替えってどこだっけ?」
 風呂場から彼の声が響いた。


* * *


先月の柳田知雪さんの掌編小説はこちら。

バレンタインデーをテーマに執筆した掌編小説もあります。

柳田知雪さんの連作短編小説もぜひご覧ください。

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