【全編無料】物書きたちの勝負曲 No.1
あなたは何か作業をする時に音楽を聞きますか?
ここぞという仕事のBGMはありますか?
ドラマ脚本家やシナリオライター、コラムニスト、取材ライターなど書くことを生業とするメンバーがそろう「文芸誌Sugomori」。
2020年11月号では普段の小説掲載に加えて、noteのお題にあやかり、メンバー達の「#私の勝負曲」を語ってもらいました。
ふたりずつ、2回にわけて公開します。
あなたと最も近い書き手は誰でしょうか?
【誠樹ナオ】の#私の勝負曲
会社員としてライターをやっていた期間が長いせいか、どんな環境でもライティングが出来る。人が喋っていようが、マンション階下でパンチの利いた車の修理屋に大音量のカーオディオをかけたオープンカーが入ってこようが、それを注意する警察車両がこれまた大音量で注意しに来ようが、はたまた近所の子どもが喧嘩しながら通学路を通っていこうが、ピアノ教室から調子っぱずれのショパンが聞こえて来ようが、原稿を書けることは書ける。
私が会社員だった当時、昨今のテレワークの前哨戦とも言えるフリーアドレスが流行り出した頃だった。
フリーアドレスっていうのは、社員が個々の自席を持たず自由に働く席を選択できるオフィススタイルのこと。従来のオフィスであれば決められた位置にデスクを配置し、一人一台デスクが与えられ、その与えられたデスクで働いていたのだけれど、その「自席」という概念をなくして空いている席で働くことができる方式である。
そう説明されれば聞こえがいいのだけれど、当時としてはよっぽど環境が整わないとうまくいかないシステムだった。
誰がどこに座っているか分からないので電話が取り次げないし(まだ電話が大活躍していた時代なんで)、ちょっと話したい時も探し回ることになるし(チャットなんてものが普及していなかったんで)、毎日荷物を持って席を探してさすらう羽目になる(書類を紙で持ってるのが当たり前の時代だったんで)。
そうかと思うと、一部の人間はいつも同じ席を占領している(割と偉い人に多い)。荷物を置く場所を確保するか書類を電子化する、更にITを生かして社員の居場所が分かるようにする、内線や一人一台の携帯電話で連絡が取れるなど、諸条件を整えなければ効果を発揮しないスタイルなんである。
私たちのように内勤で集中力を必要とする業務の場合、日々、違う音が周囲に溢れることになる。誰かが隣の席で営業をかけているかと思えば、運用部隊の打ち合わせや叫び声(なんかミスったんだろね)。
時には、社長が役員とデューデリとかM&Aとかヤベー会話をしている(それはさすがにクローズな場所へ行け)。いろんな人がいろんなことしてんだなーって観察するのは面白かったけれど、なんと賑やかな環境で原稿を書いていたことか(別に懐かしくはない)。
人間というのは恐ろしいもので、こういう環境の中でも日々ライティングをこなしていると慣れる。むしろ、無音で仕事をする方が苦手かもしれない。フリーで在宅ワークを始めた当初は、無意識にテレビをつけっぱなしにしていることが多かった。
でもテレビはうっかり付けっ放しにしていると、下世話な芸能ネタや暗い世相を反映したニュースが流れて来て気が滅入るんだよね〜。
ということで最近のお気に入りは、もっぱらラジオである。平和でいい。情報量がそれほど過多でなく、トークと音楽がほどほどに聞こえて来て疲れない。
お気に入りは山下達郎さんのサンデー・ソングブック。山下達郎さん個人のコレクションを使って発信されるオールディーズプログラムである。
山下達郎さんの音楽のセレクトはもちろん、穏やかで優しい語り口が好き。単純に曲調が懐かしい上に、思わぬ曲に思わぬ歌詞やその当時の社会情勢・世相が反映されていて勉強になる。ミリアム・マケバがキャリア初期に南アフリカで活動していたヴォーカル・グループ、ザ・スカイラークス時代のヒット曲である「Pata Pata」が取り上げられた時には「へ?!」っとなった。
最近だともう一つのお気に入りはスカイロケットカンパニー。本部長のマンボウやしろさんが、いい加減なようで示唆に富むコメントをする。浜崎秘書との掛け合いも絶妙。音楽は割と最近の曲が多いので、程よく時代に取り残されずに済む気がする。その上、基本的にはラジオの中の会社がテーマなので、働く人を応援するトーンなのが良い。
なんだかんだ、結構作業中にしっかり聞いとるな、私。
皆さんのお気に入りの作業BGMはなんですか?
▶誠樹ナオの人気シリーズ「薬膳の料理人」をまだ読んでいない方はこちらから
【柳田知雪】の#私の勝負曲
本を読む時も、文章を書く時も、私は周りに音があるのが苦手だ。
音と言っても、粒だった音。言葉になった人の声とか、ピアノの演奏とか。ジャズなどのドラムなどはそうでもないのだが、あまり激しいとやはり苦手だ。
というのも、脳内に取り入れる、もしくはアウトプットする文章にそれらの音が割り込んで邪魔されてしまうのだ。
慣れればいける、とよく聞くがまずやる機会がないので、これは多分一生なれないか、無理やりそういう環境に放り込まれるしかない。
というわけで、シナリオライターとして他にも大事なこと……そう!確定申告などの事務作業をする時の勝負曲をお伝えしようと思う!
確定申告、つまり月々の出納帳をつける時、それは戦いである。何との闘いって、自分の中に横たわるものぐさとの闘いだ。
そんなものぐさくんにさよならするために、私はノリの良い曲をかける。とにかくテンションが上がるやつ。ものぐさくんに無理やり私を応援するためのペンライトを握らせるのだ。
最近、専ら聴いているのはミュージカル刀剣乱舞の劇中歌や、二部と呼ばれるライブステージで歌われる曲たちである。
今は、去年末から今年の初めにかけて行われた『歌合 乱舞狂乱2019』の曲をヘビーローテーション中だ。
ライブや舞台になかなか行けないなか、これが胸に染みる。「あぁ、また会いたい~」と生きる活力をもらいながら事務作業を終わらせていく。
PCの前で急に合いの手やら「ふぅ~っ!!」なんて奇声を上げるから、きっと傍からみればだいぶ怪しい人だけれど、ここは自宅だから気にしない。
安心してください、集中しだすと突然静かになるので。気付いたら一番好きな曲が終わってた、とかよくあるので。
刀ミュの中でも(私の独断と偏見による)特に盛り上がる歌1位2位を争う曲に『mistake』がある。
直訳すると「勘違いした・間違えた」という意味なのだが、これを聞きつつ「大丈夫!この月、赤字だけどmistakeじゃないよ!」と謎のポジティブ思考を発揮させるのもちょっと楽しい。
とうらぶ好きのフリーランスのみなさん、いかがでしょうか?
▶柳田知雪の好評連載「明日、誰かに言いたくなるような食べ物の話」をまだ読んでいない方はこちらから
11月19日には小野寺ひかりとふくだりょうこの「#私の勝負曲」を公開します。
楽しみにお待ちください。
(11月編集担当 中馬さりの)
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Sugomori 定期便
旬の食材を題材にさまざまなジャンルで活躍する書き手たちによる小説をお届けします。 毎週月曜・木曜に新作を公開予定です。
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