【エッセイ】ふくだりょうこ『お墓に入るまでのカウントダウン』
今月で2nd Anniversaryを迎えた文芸誌「Sugomori」。6月の特集として掌編・エッセイをお届けします。今月のテーマは『記念日』。
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結婚して何年目かときどき分からなくなる。結婚したのは私がいくつの時だっけ。年齢を重ねると、だんだん自分がいくつなのかも曖昧になるときがある。
ただ、去年はさすがにすぐにわかった。ちょうど10年だったから。
結婚するときに婚約指輪がなかったので「10年目にすいーとてんだいやもんど、とやらをプレゼントしてちょうだいよ」などと言っていたけど、特に何もなかった。「ほしい?」「んー、別にいいや」で終わった。
ダイヤをもらってもつけていくところはないし、婚約指輪にしたって「別にそんなにつける機会もないし、なくてよくない?」とふたりで話して決めたんだった、と思い出す。
うちは、財布は別だけれど、自分のために高いものを買ってもらうのは気が引けるし、どうせ高価なものを買うなら、ふたりで使えるもののほうがいいな、と思うようになった。それもまた、家族になるということなのかもしれない。
ちなみに、最近、夫がプレゼントしてくれたもので効果だったものはスピーカーだ。自宅でよく映画やドラマの一気見をするから。とても重宝している。
家族になるというのはロマンもなにもないし、波乱もない。どっちもないほうがいい。穏やかが一番だ。ただ、穏やかすぎると、無駄に年を重ねていく気がしてちょっと怖い。
結婚式の日に夫が「あとは墓に入るだけだー!」と言っていたのだけれど、本当に墓入りまでのカウントダウンをするだけになってしまう。
だからなりかわからないけど、我が家では記念日やイベントはちゃんと何かしらやっている。結婚記念日はもちろん、お互いの誕生日、バレンタイン、ホワイトデー。ふたりとも4月生まれなので冬から春にかけてはイベントが渋滞気味になる。
逆に夏は何もないので、うなぎ記念日がいつのまにか誕生していた。夫がうなぎが好きで、毎年、浜松までうなぎを食べに行くのだ。ここ3年は時勢もあり行けていないけれど。あと、うなぎが高いので、何か代わりの記念日を作ったほうが良さそう。スイカ記念日でも作るか。私がスイカが好きなので。丸々1個買ってきてかぶりつくとか……ダメだ、さすがに食べきれないな。考えよう。
夫婦ふたりの生活で、イベントや記念日は会話のきっかけにもなるので良い。
「どこに行こうか」「何を食べに行こうか」「ほしいものはある?」
そんなふうにわざわざネタを作らないといけないのか、となるけれど、夫婦だろうと家族だろうと、コミュニケーションをとる努力をするのは大切だ。いや、家族だからこそ、なのかも。一緒に暮らしてるからと言って、考えていることが分かるはずがない。エスパーか。
墓に入るまで、あと何度、記念日を通り過ぎるか分からないけれど、そのたびに立ち止まってみるのも悪くはない気がする。
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