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【掌編】柳田知雪「本日、我が家は雨模様」

あっという間に梅雨が明けてしまいましたね。
そんな梅雨を惜しみ、文芸誌Sugomori 7月号の掌編小説・エッセイのテーマは『雨』です。様々な雨の日、姿、音をお楽しみください。

『本日、我が家は雨模様』

実家に帰ると、シャワーが泣いていた。
風呂場で俯くヘッドから、てろてろと水が流れていく。
ホースを伝って落ちた雫が、排水口へと一本の太い川を生み出していた。
蛇口を回しても、雫は留まるところを知らない。
ヘッドの傾きを調整してみても、シャワーは泣き続けた。

「お前は悲しいの?」
問いかけたところで返事があるはずもない。
シャワーはただ、てろてろと泣き続ける。

「でも、大往生だったよ。九十八歳なんて」
喪服は、まだ線香の匂いを纏っている気がする。
覚悟はしていたが、1年も経たないうちにまた着ることになるとは。

前回着たのは、父の葬式の時だった。
「これで一人、伸び伸びできるわぁ」
なんて笑っていた母も、一昨日、息を引き取った。

今思えば、父が亡くなってから母からの連絡はあきらかに多かった。
「近所の桜が綺麗だった」とか。
「今年は梅雨が遅いわね」とか。
毎度返事はしたけれど、それだけだった。
寂しい、というサインなのだと気付きつつ、それだけだった。
仕事とか家庭とか、言い訳はいくらでもあったから。

視界が滲む。喉が熱くなる。
シャワーの涙は、呼び水だった。


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