【全文無料】掌編小説『きらきらきらい、きらきらきれい』衣南かのん
今月のオンライン文芸誌「Sugomori」は特別号です。書き下ろしされたどの作品も無料で読むことができます。書き手は衣南かのんさんです。お題は「クリスマス」、季節の掌編小説をお届けします。
【きらきらきらい、きらきらきれい】
「なあ、あやってイルミネーションとか、好き?」
らしくもなくもじもじと、何か言いたげにしていたから何かと思えば。
冬休み前の帰り道、ゆうやに聞かれたその問いにあたしは盛大なため息で答えた。
「知らないよ、そんなの」
「なんでだよ。おまえら仲良いだろ」
「仲良くたって、イルミネーション好き? なんて話したことないもん。ていうか、しないでしょ。そんな話」
なんだよと口を尖らせるゆうやに、それはこっちの台詞だよ、と返したいのをぐっと堪える。
あーあ、なんか、バカみたい。
「……あやのこと、誘うの? クリスマス」
「いや……」
「すきなんだ?」
わざと笑いを混ぜて尋ねれば、ゆうやはますます口を尖らせた。デリカシー、とかなんとか、そんな言葉を呟きながら。
デリカシーだって。ほんと、全部そのまま返してやりたいよ、その言葉。
「イルミネーションなんてさあ、ただの電気じゃん?」
「かわいくねえな。お前、そういうところだよ」
精一杯の強がりに声が震えていたことなんて、きっと気づいてないんだろう。
ゆうやの頭の中は今きっと、あやと過ごせるかもしれないその日のことでいっぱいで。
ねえ、もしもさ。あんたがあたしに、イルミネーションが好きかどうか聞いてくれたら……。
大好きだよ、って、言えたんだけどな。
そんな淡い思い出も何処へやら、今年も街はキラキラと色づいていく。
鮮やかに灯る景色を見つめていると、隣からふっと小さな笑い声がこぼれた。
「綺麗だね」
優しく、私だけに向けられた言葉に、ようやく笑って頷く。
「うん、すごく綺麗」
あの日、ほんの少し期待してゆうやの隣を歩いていた自分とか。ちくりと痛んだ胸の奥とか。可愛くない見栄を張るしかできなかった幼さとか。
全部、目の前のキラキラに吸い込まれていく。
「……来てよかった」
白い息と一緒にあの頃の熱ごと吐き出した私を、隣に立つ彼が優しく見つめていた。
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