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【小説】誠樹ナオ「第一王女は婚活で真実の愛を見つけたい」第4話(後編)

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悔しいけれど、アスランの言う通りだ。
言い方は厳しいけれど内容はすべて正論で、言い返すことができなかった。

「今日のあなたは点数をつけるとしたら0点です」
最後に吐き捨てるように言われ、私はようやく我に帰る。
「ち、ちょっと、いくらなんでもそこまで言われる筋合いはないと思うけど!?……失礼じゃない!?」
「じゃあ、やめますか? 今のままでは一生、結婚は厳しいと思いますが」
しれっと言うアスランに、グッと言葉が詰まる。
ここで辞めたら、目の前の男にけなされるために面倒な思いをしただけじゃない。

わざわざ面会までしたのに、恥をさらしただけだと思うとやりきれない。
「次を紹介して」
しばらく考え込んだ挙句、私はそう言って顔を上げた。
次で絶対、この男を見返してやる!
強く握りしめて白くなった指先を見つめ、私は心の中で闘志をみなぎらせた。

──

その夜。
「随分と絞られましたわね」
テレーズが恐る恐る……でも、半分笑いながらお茶を出してくれた。自分の分も用意して向かいのソファに座ってくれたから、話を聞いてくれるつもりなのだろう。
「そうね。正直、ムカつく男だわよ」
「でも、ちょっと反省もされておりませんこと?」
「……してる」
さすがに子供のころから一緒に育っているテレーズだ。いつにない私の気配に、思うところがあるのだろう。
確かに、言われてみればアスランの言うことも一理ある。私の身形は長年身につけた定番のスタイルで、テレーズの結婚式ですらことさらに変えたりはしなかった。テレーズもルイスも私のことは十分わかってくれているから、変える必要性も感じなかったのだ。
でも、もう少し時と場所を考えてもいいのかもしれないな。

それに──
「アスランって……私のこと、第一王女だからあーしろこーしろとは言わないのよね」
「そうですわね」
女性としてダメだとは言うけれど、王女という観点で評価はしない。そして、一度たりともへつらったり媚びを売ったりはしない。
それは随分と久しく忘れていた感覚で、罵りも存外悪い気はしない自分が不思議だ。
「それに服装やヘアスタイルに関しては、わたくしもちょっと……いえ、だいぶ?アスラン様に賛成ですのよ」
「え?なにそれ」
テレーズがきらりと目を輝かせて、茶器を置く。
「以前から、レティシア様の強い女一辺倒なスタイルはもったいないと思っていましたの。ねえ、お前たち?」
「お前たち!?」
「そうですわ!!」
何人かの声が合わさって、テレーズの呼びかけが合図かのように侍女たちが飛び込んでくる。

「え、え、え……」
わらわらと取り囲まれて、私はいつの間にかドレスを剥ぎ取られ、コルセットだけで鏡の前に立たされていた。
「なにするのよ!」
「こちらのドレスはどうかしら?」
侍女の一人が、どこからか持参したドレスを私の身体に当ててみせる。
「いえいえ、レティシア様なら可愛らしさを強調してもお似合いになりますわ!」
「お肌もきめが細かくていらっしゃいますもの。磨けばもっと光ますわよ!!」
「なんなら、マッサージもしてしまいますわ!」
「ええ、パックもしましょう」
「マッサージの前に湯浴みですわ」
「その間にジュエリーも見立ててしまいますわ」
「香油でお髪のお手入れも致しましょう!」
「ちょ、ちょっと、なんなのよー!!!」
両腕をがっしりと掴まれて、私は湯殿に連行されていったのだった。

──

次の面会日はすぐにやってきた。
面会に設定されたのは、主城から少し離れた離宮だった。隣国からお嫁に来たお母様が、主城では気詰まりだろうと与えられた城内の所領のようなもので、前回よりはリラックスできるだろうと設定されたらしい。
今日のヘアスタイルは、香油で艶を強調して毛先を巻いたハーフアップ。メイクは垂れ目がちなアイラインを入れ、柔らかい色のふんわりドレスに身を包んでいる。

なにこれ、まるでお姫様の仮装じゃない……

首元にはピンクの色石のついたさりげない首飾りと、揺れるお揃いの耳飾り。紛れもなく私も姫ではあるのだけれど、自分らしくない姿にどうしたらいいのかわからない。
けれど服装やヘアメイクに合わせようと、多少なりとも女性らしくしようとしている自分が不思議だった。アスランの言うとおりにしてみたら、どれくらい前回と差が出るのか試してみようと思ったのだ。
……今日こそは、アスランにあんなこと言わせるもんですか!

その結果──
今日の候補者の彼は、会ったその瞬間から気味が悪いほど私に優しかった。そして退屈な話でも相槌を打ち、何か言われるたびに相手を褒めるように努めた。
「お会いする前とは、随分印象が違いました」
「ま、まあ、そうかしら……おほほ」
「私が夫となって、全身全霊でお守りしたいと思います!」
守るという言葉に、私は大きなショックを受けた。

そんな言葉が私に向けられたことは、今まで一度もない。
「守るって……なんなのよ」
猫を被っているのにもだんだん疲れていた私の口から、言葉が口をついて出た。
「え?」
「大きなお世話よ。女がみんな守って欲しいんだと思われたら、迷惑千万だわ」
しょせん、男なんてみんなこういう女が好きなんだよね。頭の弱そうな……なんかやりきれない!

言ってしまってからハッと気付くと、彼はこれ以上ないほど目を見開いて私を見つめていた。
「あ……っ!」
「そうですよね……」
「あ、いえ……その」
「レティシア様のようなお立場の方に、守るなんて失礼でしたよね」
頭を下げて謝られ、気まずい空気が二人を包む。空気が再び良くなることはなく、彼と別れることになった。きっと、二度とこういう形で会うことはないだろう。

──

この日もアスランに報告をすることになっていて、重い足取りで私室に戻った。
彼の指示通りにしているうちはよかったのに、ちょっと本当の私の顔が出た途端に明らかに引いたような態度……なんだか自分を否定されたような気持になり、ヘコみつつアスランを待つ。
「レティシア様、いいじゃないですか」
部屋に入ってきたアスランは、私を見た途端に声を上げた。
「何も良くない……」
「え?」

根掘り葉掘り聞かれてまたガッツリ怒られるよりはマシだと、自分から今日のことを話し出す。
ポツポツと重い口を開く私の話を、アスランは最後まで頷きながら聞いてくれた。
話し終えると、私たちの間にシーンという音が聞こえそうな沈黙が流れた。

また怒られるんだろうなぁ。
「何よ……言いたいことがあるなら、さっさと言いなさいよ」
気まずさに耐えきれず、私は自分から口火を切った。

「そうですね、それでは言わせていただきますけど……」
来た……ゴクリと唾を飲み込むと、アスランは椅子から立ち上がって私の手の上にそっと手を重ねた。

「まだ2回目なのに、よく頑張りましたね」

第5話は6月号に掲載予定です!

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