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【全文無料】掌編小説『若葉』舞神光泰

Sugomori5月の特集として、季節の掌編小説をお届けします。
今月のテーマは『若葉』。書き手は舞神光泰さんです。

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『若葉の印』

 前方を走る車に私の視線は釘付けだった。若葉マークともみじマークの両方をつけたロールスロイスが制限速度以下で走行しているのである。同じく若葉マークの私からすると悪夢以上のなにかに全身から吹き出る汗を止められずにいた。
 ピカピカのロールスロイスのお尻は鏡のように反射し、こちらの困り顔を容赦なく見せつけてくる。見れば見るほど美しくて、それでいて巨大なボディ、とてもじゃないが追い越せないし、もし傷でもつけたら私の給料の3ヶ月分は容赦なく吹き飛ぶだろう。
 焦っている時ほど頭を冷静にさせないといけない、そもそもこのロールスロイスに乗っているのはどのような人物だろうか?

①長年の夢だったロールスロイスを購入した老人で免許も取り立て。
②すごい金持ちの老人が初心者の孫にプレゼントした。
③新手の煽り。

 私の乏しい想像力では3パターンしか考えられなかった。そしていずれのパターンにしても私の力ではどうしようもない、①なら好感が持てるぐらいで応援したくなるが、なんとなくそういう人は偏屈っぽくてこだわりも強いだろう。②ロールスロイスをビギナーに与えるような老人だし、孫だし恐怖しかない、たぶん擦りでもしたらどんな事をされるかが分からない。③金持ちなのに攻撃してくるヤバい奴。もう地獄しか残っていない、早いとこ右か左に曲がって欲しい、それか速度を上げてくれ頼みます。道路交通の神様どうかお願いします。歩行者側でも信号無視はほぼしたことがありません、赤信号にも割と引っかかる方なのでどうかその分のポイントを差し引いてください。
 神様への祈りが通じたのか、ロールスロイスはコンビニへ駐車してくれた。せっかくなので顔を見てやろうと思い、私も駐車場へと入りこんだ。止まった高級車から現れたのは腰の曲がったお婆さんだった。
 なんかちょっと素敵だなと思った自分が癪に障った。

文芸誌Sugomori/お題「若葉」
舞神光泰

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