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教育エビデンス:小中学生を留年させる効果

一部の国では、成績が一定レベルに達しない場合等に、小中学生でも留年させること(Repeating a year)は珍しくありません。(アメリカ、スペイン、フランス、ドイツ、フィンランド等)確かに、全く授業についていけずに辛い思いをするよりも、自分にあったクラスで学ぶ方が良いのかもしれません。イギリスの研究機関が2021年時点での71個の先行研究を分析した結果を紹介します。イギリスでは小中学生の留年は一般的ではないので多くはアメリカでの研究です。

キーテーマ

留年・実験

結論

小中学生の留年とは、

  • 1年の終わりに所定の学習基準に達しない生徒が、次の学年に進まず、1学年下の生徒たちと一緒のクラスに参加すること。

  • 中学校レベルの生徒の場合、生徒が合格していない特定の科目またはクラスに限定される場合が多い。

留年は生徒の成績にマイナスの効果がある。

  • 生徒を留年させることは、平均してマイナスの影響を及ぼす。

  • 経済的に恵まれない生徒、マイノリティ、学年の中で誕生日が遅い生徒の場合、悪影響はさらに大きくなる。

  • 悪影響は時間とともに増加する傾向があり、1年以上留年させると、生徒が学校を中退するリスクが大幅に高まる。

  • 同じ程度の成績の生徒を留年させなかった場合とさせた場合では、留年した生徒の方が小学生で2ヶ月分、中学生で4ヶ月分のマイナスの効果がある。

  • 但し、病気やその他正当な理由がある場合に、有効となる可能性がある。

  • 金額コストが大きい。(小学生の場合は生徒1人あたり3,000ポンドから4,500ポンド、中学校の生徒の場合は4,500ポンドから6,000ポンド)

実験デザイン

イギリスのEEFが小中学生の留年の効果に関する先行研究の71個の平均的な影響を分析した。
結果、多くの先行研究において留年システムの導入にはマイナスの効果があった。

留意点

71個の論文にはランダム化比較実験以外の研究や比較的古い研究も多く含まれており、エビデンスレベルは高くないことに留意が必要です。
エビデンスレベル:複数の研究の平均

編集後記

成績に悪影響がある、教育格差を広げる、コストは高いとなかなか残念な結果でした。本調査では留年システムにマイナスの効果がある理由として「生徒や保護者が留年を汚名や罰のように感じてしまう」「年下の生徒と一緒に勉強しなくてはいけない」などを仮説としてあげていますが、確かに自分が小中学生の時に留年させられたとしたら、惨めだし、友達と離れるのが寂しくて勉強どころじゃなくなる気がします。

文責:識名 由佳 

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過去記事のまとめはこちら

Repeating a Year (2021) EEF. Retrieved May 20, 2022, from
https://educationendowmentfoundation.org.uk/education-evidence/teaching-learning-toolkit/repeating-a-year


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