先生の職務満足度・自己効力感を向上させるには?
以前、「先生がいきいきと働ける環境を作るには?」というタイトルで、文献レビューの論文を紹介させていただきました。
当文献レビューは、英語で書かれた複数の定量・定性調査を横断的に検討したものでしたが、今回は、日本ってどうなの?を考えるべく、TALIS(国際教員指導環境調査※)の結果を紹介したいと思います。
※TALISとは、OECDによる学校・教員に関する国際調査です。今回ご紹介する結果は英語で書かれたレポート内にあるものですが、全体レポートの日本語での要約は文部科学省のこちらのページからご覧いただけます。
キーテーマ
教員の職務満足度、自己効力感、専門性の向上
結論
日本では....
以下の要素があるほど、教員の職務満足度が高くなる傾向が見られました。
教職がキャリアの第一の選択肢であったこと
現在の勤務校での、経験豊富な教員とのチームティーチングを含む導入活動(※)への参加経験
教授法選択における教員の裁量の大きさ
職場でのストレスが低いこと
過去12ヶ月間に行われた専門性向上のための活動が、教員としての実践にプラスの影響を及ぼしたこと
過去12ヶ月間に、教員としての実践にプラスの影響を及ぼすフィードバックを受け取っていること
専門職としての協働の多さ
教員という専門職が社会的に評価されていると感じていること
以下の要素があるほど、教員の自己効力感が高くなる傾向が見られました。
現在の勤務校での、経験豊富な教員とのチームティーチングを含む導入活動への参加経験
教授法選択における教員の裁量の大きさ
職場でのストレスが低いこと
クラスの規律的な風土が強いこと
過去12ヶ月間に行われた専門性向上のための活動が、教員としての実践にプラスの影響を及ぼしたこと
専門職としての協働の多さ
※導入活動とは、初任・新しく赴任した教員が学校に馴染めるよう企画されたコースやサポートのことを指します。
研究デザイン
教員アンケートのデータを使用した回帰分析
結果
以下、TALISが実施した
教員の職務満足度と、職務満足度に影響する可能性がある要素の回帰分析
教員の自己効力感と、自己効力感に影響する可能性がある要素の回帰分析
の結果を当記事の筆者が独自でまとめた表です。
表の読み方は以下の通りです。
表内、数字が記載されている場合、職務満足度/自己効力感と、該当する要素が統計的に有意な関係にあることを示します。数字は、その関係の強さを示しています。
表内の×は、職務満足度/自己効力感と、該当する要素に統計的に有意な関係が見つからなかったことを示します。
表内のーは、職務満足度/自己効力感と、該当する要素に関する回帰分析が実施されていないことを示します。
なお、表上部のグループ(e.g., 教員個人の特性に関わること)は、分かりやすさのため、当記事の筆者が独自でつけたものです。
教員個人の特性に関わること
<教員経験年数><1年以下の契約で雇用されていること>は、日本では教員の自己効力感との関係性が見られませんでした。OECD平均では、教員経験年数が長いほど、自己効力感が高まる傾向が見られました。
※<教員経験年数>と自己効力感の関係が見られなかったことは意外な結果かもしれませんが、同時に検討されている<年齢>が高いほど、自己効力感が高い傾向にありました。日本では、教員経験年数と年齢がほぼ同じように推移することを考えると、<教員経験年数>の影響が<年齢>に吸収されて結果が出ていると言えそうです。<教職がキャリアの第一の選択肢であった>ほど、職務満足度が高くなる傾向が見られました。なお、日本ではOECD平均の倍近い影響の強さが見られました。
導入活動に関わること
OECD平均では、<現在の勤務校での、公式・非公式の導入活動への参加経験>があるほど、職務満足度や自己効力感が高まる傾向がありました。一方で、日本ではその関係は見られませんでした。
しかし、<導入活動が、経験豊富な教員とのチームティーチングを含む>場合、日本でも職務満足度や自己効力感が高まる傾向がありました。
職場環境に関わること
<教授法選択における教員の裁量が大きい>(e.g., 教材の選択)ほど、日本でもOECD平均でも、職務満足度・自己効力感が高まる傾向にありました。ただし、日本における職務満足度との関係の強さは、OECD平均と比べると半分程度でした。
<職場でのストレスが高い>ほど、日本でもOECD平均でも、職務満足度・自己効力感が減少する傾向にありました。
<クラスの規律的な風土が弱い>ほど、日本でもOECD平均でも、自己効力感が減少する傾向にありました。
同僚関係・専門性向上に関わること
<過去12ヶ月間に行われた専門性向上のための活動が、教員としての実践にプラスの影響を及ぼした>、<過去12ヶ月間に、教員としての実践にプラスの影響を及ぼすフィードバックを受け取っている>、<専門職としての協働がある>ほど、日本でもOECD平均でも、職務満足度が高まる傾向がありました。
加えて、<過去12ヶ月間に行われた専門性向上のための活動が、教員としての実践にプラスの影響を及ぼした>、<専門職としての協働がある>ほど、自己効力感が高まる傾向がありました。
その他
<教員という専門職が社会的に評価されていると感じている>ほど、日本でもOECD平均でも、職務満足度が高まる傾向が見られました。
留意点
回帰分析であり、教員の職務満足度・自己効力感に影響を与える要素が全て考慮されているわけではないことに留意が必要です。
加えて、表下部の注意書きからも分かる通り、各回帰分析は異なる要素を取り入れているため、単純な要素間の比較には注意が必要です。
エビデンスレベル:回帰分析
編集後記
因果関係を検討した分析ではないため、また、各要素の改善に必要なコストは異なる(例えば、教員が「実践にプラスの影響を及ぼしたと感じる」研修を実施するためのコストと、専門職としての協働度合いを高めるためのコストは比較されていない)ため、当該結果のみをもって、どのような施策を実行すべきかの結論を出すことは難しいです。
ただ、導入活動においては「チームティーチング」を取り入れると職務満足度や自己効力感との関係が見られた点は、具体的な施策を考えるための示唆として応用できそうです。
また、専門性向上のための活動・フィードバック・協働の重要性を改めて裏付ける結果が示されました。特に、専門性向上のための活動に関しては、OECD平均よりやや高い影響が示されています。
アンケートでは「教員としての実践にプラスの影響を及ぼした」専門性向上のための活動・フィードバックという聞き方をしており、具体的に「プラスの影響を及ぼす」専門性向上のための活動・フィードバックをどのように提供すべきか、検討の余地がありそうです。
文責:井澤 萌
OECD, TALIS 2018 Database, Tables I.4.6, I.4.51, I.4.54, I.5.13, II.2.7, II.2.41, II.4.14, II.4.54 and II.5.41
OECD, TALIS 2018 Database, Tables I.2.25, I.3.57, I.4.47, I.4.53, I.5.14, II.2.42, II.3.28, II.4.16, and II.5.40.