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教育エビデンス:VR(バーチャルリアリティ)を用いた学習の効果

「メタバース」への関心が高まっていますが、バーチャルリアリティは教育にどのような可能性をもたらすでしょうか?

現実で「練習」が難しい解剖や手術を学ぶ際、シミュレーションを用いることは医療関係で長く行われており、最近は社会問題への理解を深めるシリアスゲームへの注目も集まっています。
また、コロナもあり、実際に訪れることが難しい場所をバーチャル空間で経験するといった可能性も広がっています。

そんなバーチャルリアリティがどの程度学習に効果的なのかを検証したメタアナリシス(Merchant et al., 2014)をご紹介します。

キーテーマ

バーチャルリアリティ(VR)、ゲーム、シミュレーション、バーチャル空間

結論

バーチャルリアリティ3種のうち、シミュレーションやバーチャル空間より、ゲームの方が効果的であった。
しかし、一般的な教授法など対照群と比較した際は、ゲームやバーチャル空間は対照群との違いが見られなかった。一方で、一般的な教授法とシミュレーションの組み合わせは対照群より効果的であった。

実験デザイン

以下、3種類のバーチャルリアリティの介入の効果を検証した計67の研究について、学習効果の度合いを比較した。

シミュレーション

学習者が自分で仮説検証を行いつつ学ぶために実世界を模したデジタル学習環境。コストや倫理面、安全面から実世界では実践が難しい領域で有効とされる(e.g., VflogTM:蛙の解剖)。

ゲーム

シミュレーションの一種。学習者が自分で戦略を立て、仮説を検証し、問題を解決するといったデザインを通して学習動機を持続させる。

バーチャル空間


他の学習者や対象物との相互作用を通して学ぶために入り込む3D空間。シミュレーションやゲームより自由度が高く、学習者自身が課題をデザインする。

学習効果の種類や効果測定の方法、フィードバック有無などを考慮し、どのような学習デザインが効果的か検証された。

結果

  1. 学習効果の種類(知識・スキル・能力)に関わらず検証すると、シミュレーションやバーチャル空間より、ゲームの方が効果的であった。

  2. ゲームとバーチャル空間の効果は、学習直後に測定された場合でも時間をおいて測定された場合でも変わらなかった。シミュレーションの効果は、時間をおいて測定された場合、学習直後に測定された場合より減少した。

  3. 一般的な教授法や2Dイメージ、介入無しの場合と比較して、シミュレーションと一般的な教授法を組み合わせた方が効果的であった。ゲームとバーチャル空間に関しては比較対象との違いが見られなかった。

  4. 教師の有無はシミュレーション・バーチャル空間において学習効果に違いをもたらさなかった(ゲームに関しては検証不可)。

  5. 協働的に学ぶより、個人で学ぶ方がゲームの効果が高かった。シミュレーションとバーチャル空間ではこのような違いは見られなかった。

  6. シミュレーションは、既存の学習の置き換えより、事前に学んだ知識を用いて演習を行う際に効果的であった。バーチャル空間ではこのような違いは見られなかった(ゲームに関しては検証不可)。

  7. ゲームで学習する回数が多くなると、学習効果は減少し始めた。シミュレーションでも同様の傾向が見られたが、学習効果の減少は非常に小さかった。バーチャル空間ではこのような傾向は見られなかった。

  8. シミュレーションにおけるフィードバックに関して、事実を学ぶ場合、視覚的手がかりより、詳しい説明を与えた方が効果的であった。課題を遂行する場合、知識の正否を教えるのみで充分であった(ゲームとバーチャル空間に関しては検証不可)。

留意点

当研究は小中高大の全てを対象としており、学習者の発達段階による違いは考慮されていません。なお、全体で見ると大学生対象の研究が52%(サンプル数では59%)を占めます。
また、英語で書かれた全ての論文が検討対象となっていますが、研究が実施された国は検討されていません。
特定の校種や国に結果を応用する際は上記の点を考慮する必要があるでしょう。

エビデンスレベル:メタアナリシス

編集後記

「一般的な教授法など対象群と比較した際は、ゲームやバーチャル空間は対照群との違いが見られなかった一方、一般的な教授法とシミュレーションの組み合わせは対照群より効果的であった」という結果は、バーチャルリアリティを使用すること自体が従来の教授法より効果的であるわけではないことを示しています。
バーチャルリアリティをより活用するという前提ではなく、コストや倫理面、安全面よりバーチャルリアリティを選択する方が妥当な場合、うまく組み合わせていくという姿勢が重要だと考えられます。

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過去記事のまとめはこちら

文責:井澤 萌

Merchant, Z., Goetz, E. T., Cifuentes, L., Keeney-Kennicutt, W., & Davis, T. J. (2014). Effectiveness of virtual reality-based instruction on students’ learning outcomes in K-12 and higher education: A meta-analysis. Computers & Education, 70, 29–40.

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