「ナントの敗戦」を振り返る:「トライ機会」を100%つかんだアルゼンチンと、50%しかつかめなかった日本
ラグビーワールドカップ2023年大会は、南アフリカ対ニュージーランドの壮絶な決勝戦とともに終わりを告げました。そして次のワールドカップに向けた歩みが始まります。
次のワールドカップに視線を移す前に
その前に、いまさらながら、「ナントの敗戦」こと、日本対アルゼンチン戦をもう一度振り返っておきたいと思います。
あの試合をご覧になった方は、日本が攻めていても惜しくも得点まで持ち込めない一方で、アルゼンチンは日本が点を取ったあとで着実に点を取り返してきたこと、あるいは日本がキックで攻撃してもボールを失っているように見えたことをご記憶ではないかと思います。この点をエビデンスで振り返っておきましょう。
ビデオを見直し、2つの点から検証してみます。今日はその1回目。得点機会をどのくらい活かせたか、です。
「22mラインを越えた数」を数えてみる
サッカーでは最近では「ゴール期待値」という数字が出るようになっていますが、ラグビーでは「トライ期待値」のようなデータはありません。
そこで私は、22mラインより内側に入ってマイボールで攻撃できた数と、そのうち得点に結びついた数がどれくらいあったかを数えてみることにしました。(22mラインの外でもペナルティゴールからの得点は狙えるので、22mラインを超えた数は「得点機会」というよりは「トライ機会」と見なすべきではあります)
数自体を見てみると、日本が22mラインを超えてマイボールで攻撃を行うことができたのは8回、アルゼンチンは6回です。つまり日本の方が攻め込んだ回数は多かったことになります。
8回中4回しか得点できなかった日本
それぞれの内訳を見てみましょう。まずは日本からです。
11分:ノックオンでボールロスト
14分:トライ
27分:ドロップゴールを試みてボールロスト
37分:トライ
41分:ノットリリースザボールでボールロスト
49分:ペナルティゴール
63分:トライ
77分:ノックオンでボールロスト
8回のトライチャンスのうち、得点は半分の4回に留まります。トライまで言ったのは3回。
惜しまれるのは27分のドロップゴールを試みてのボールロスト。この時はチャージされ、そのあとのプレーの流れでアルゼンチンがトライを奪っています。この時の日本はラブスカフニのイエローカードで1人少なかったわけですが、大きな分かれ目となったプレー選択でした。
ノックオンの2つも、特に11分のノックオンはいいリズムで攻めていたときのブレイクダウンからの球出しですから惜しまれます。
あとは41分。外で完全に余った状況の絶好のトライチャンスでしたが、相手の手に触れてパスが乱れ、そのあとの流れでのノットリリースザボールでした。
11分と41分はトライにつなげられた可能性はありましたし、27分の失点は、チャージ後のプレー選択によっては防げたものでした。そう考えていくと、最終得点差の12点差をひっくり返すチャンスは十分にあったと言えます。そのチャンスをつかみきれなかったということでしょう。
6回中6回得点したアルゼンチン
次にアルゼンチンです。
1分:トライ
27分:トライ
33分:ペナルティゴール
44分:トライ
57分:トライ
67分:トライ
なんと6回すべてで得点しています。「22mラインを越えたら点を取って帰ってくる」というのはラグビーの鉄則と言われますが、実践はなかなかできないもの。この試合のアルゼンチンは見事だったと言わざるを得ません。
特に後半の3回でそれぞれトライを取りきったのは大きかったです。いずれも、コンタクトで少しずつ日本が後退させられ、最後は外に回されてのトライでした。
サモア戦も後半はコンタクトで劣勢に立たされたことを考えると、後半のコンタクトは今回のブレイブブロッサムズのある種のアキレス腱だったといえるのかもしれません。
ただ、日本は、2022年11月のイングランド遠征での大敗後、フィジカルとディフェンスの強化を重視してチームを強化してきたようです。
それがなければもっと点差が開いていた可能性もあるわけですが、フィジカルとディフェンスの強化についても時間が足りなかったということでしょうか。。。。
なお、アルゼンチンがこれだけ効率的に得点できた理由に「キック」があります。次回はキックを見てみましょう。