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2023ファジアーノ岡山にフォーカス43『 J2の進化と共に~繋ぐ~ 』J2 第32節(A)vs東京ヴェルディ


1、ほぼ失効した「頂」~道標~


 前節に、上位の大分に対して、ホームで内容と結果が伴って勝利した後に迎えたアウェイでの東京V戦。東京Vがホームで10試合勝てていなかった事を差し引きしても、東京Vに対して、厳しい結果が続いていた岡山。岡山が「頂」のリーグを目指す上で、仮にプレーオフ進出できれば対戦する可能性の高いクラブの1つである東京Vとの試合。残り試合が、10試合という中で、勝利できた事は、大きな意味を持つ。

 今季2巡目を戦って行く中で、J2リーグのスタンダードとなるサッカーのレベルや戦術も大きく変わって来たように感じている。木山 隆之 監督の就任以降、そこに対応するためのアップデートに取り組んで来た。しかし、22シーズンは、積み重ねた勝ち点とは対称的に、木山 隆之 監督が、思い描く理想像のスタイルとは、程遠かった。

 そして、今季の木山ファジは、開幕戦でやりたいサッカーに近いサッカーを体現できたが、そのサッカーの隙が見つかると、手応えのある内容に対して、結果がついてこなかった。代表での離脱や怪我人が続出した結果、なかなかベストメンバーの中のベストメンバーで、戦えない試合も多かった。

 それでも、その分チームの総合力は上がった。31節と32節の結果と内容の両面で、可能性を示せた試合となった。J2の「頂」は現実的ではなくても、Jリーグの「頂」のリーグを目指すことはまだできる。「頂へ」というワードをメディアから聞かなくなってきたことが、全てであるが「頂」に負けないインパクトという意味の目標としては「奇跡」が良いかもしれない。

 この「奇跡の昇格」に向けて、J2のスタンダードがどれだけ向上したのかという視点と、岡山が、J2リーグのサッカーレベルの向上に適応し、どうアップデートしたのか。成長と課題と東京Vのサッカーと共に、この2連勝をどう捉えるべきか。怪我のリスクに具体的に言及したデータと17末吉 塁を活躍から、私の残り試合のレビューのテーマは、「奇跡で頂のリーグへ!」で応援していくという決意表明のレビューとしたい。

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 タイトル画像は、noteの機能により選択した「blue_zkym様」からお借りしています。サブタイトルの「繋ぐ」からイメージにマッチしたことが、お借りした決め手です。


2、試合寸評~繋がった攻防~

 岡山が、今季のJ2を戦ってきている中で、後からしっかり繋げるチームが増えてきた。前節の大分や今節の東京Vもそうであった。その2チームに対しても、前半限定ではあるが、持てるようになったのは、木山ファジの成長の証である。

 この試合でも岡山も東京Vの両チームとも後から繋ぐことがしっかりしていた。中盤から先の所での違いとして、岡山は、パスとドリブルで更に中に進入していく意識が高く、東京Vは、シンプルにクロスを入れて行く意識が高かった。

 岡山の前半の決定機は、まさにパス交換のやりとりで裏へと走り出した41田部井 諒へスルーパスが出た事で、そこから絶妙なスルーパスが、7チアゴ・アウベスに通ったものであったが、残念ながらこのシーンでは、岡山は決める事ができなかった。7チアゴ・アウベスもかなり悔しがっていた。

 逆に東京Vもやや前がかりとなっている岡山の背後をついてのスルーパスから決定機を作った。岡山の方に明らかなスペースの隙があった訳では無く、中盤の選手が前を向けるという僅かな隙があっただけに見えるが、その機会を逃さずFWの39染谷 唯月へと絶妙なスルーパスが通って、GKとの1対1というシーンだったが、シュートを吹かしたことで、東京Vも得点ができなかった。

 前半の決定機は、両チーム一度ずつだが、後半に向けて手応えを感じた前半となった。

 後半に入っても両チームの形が出ていた中で、東京Vの選手が足を滑らせた所を42高橋 諒が見逃さず、そのまま股を通して置き去りにすると、裏へと駆け抜ける。そして、ラストパスを7チアゴ・アウベスへと通し、2度目の決定機を7チアゴ・アウベスが今度は、しっかり決めきった。

 そこから両チームは、頭と体をフルに使っていたことで、体力の消耗によるアクシデントによる交代が続く。ここで、流れを更に引き寄せたのが、岡山だ。推進力のある選手が、投入していたことで、そこから得たセットプレーの継続的な攻撃で、15本山 遥が気持ちを籠ったヘッディングシュートを決めると、99ルカオが、6輪笠 祐士の完璧なスルーパスで演出された決定機で、一度は止められたが、こぼれ球が良い所に転がってきたことで、流し込むだけというシュートを決めて、0-3というスコアに持ち込んだ。

 これで、勝負ありかと思われたが、東京Vもホームの意地をみせる。東京Vの攻撃の形であるクロスを頭で軌道を変えて、頭で決めきるという得点。他クラブでは、なかなか真似できない東京Vの選手の技術と意図が、点と点で繋がった反撃の2得点で、2-3というスコアとなった。

 こうなると勝負が分からなくなるが、岡山も3点差あったリードがあったことで、辛うじて、逃げ切ることができた。良い流れ、良い攻撃ができても90分間で勝負するスポーツという事を改めて感じた。そして、前半から後半まで、1つの試合という物語りとして、繋がっている事も同時に感じた激戦は、辛うじて岡山が制することとなった。


3、気高い堅守の名手~東京V編~

 東京Vが、譲れない堅守は、3失点した中でも輝いていた。このサッカーであれば、守備が安定する。そういった確信の持てるサッカーであるように、筆者の目には映った。主体的な堅守だからこそ、東京Vのサッカーは、自信と気品に満ちている。

 22シーズンの新潟の堅守の理由はやはり、ボールが持てる事であり、23シーズンの東京Vの堅守の理由の1つとしてもやはり当てはまる。自陣からしっかり繋いで、着実に前進できる。岡山が、前からのハイプレスを継続しない(できない)理由として、リーグ全体の「繋ぐ」力のあるチームが増えて、形というスタイルを持っているチームが増えたことで、そこがサッカーの標準となってきていることも関係しているはずだ。

 ポイントとしたいのは「繋ぐ」の解釈。流れを繋ぐ。パスを繋ぐ。守備を繋ぐ。攻撃を繋ぐ。プレスを繋ぐ。各クラブが、独自の方法で、攻撃や守備の持続性、主体性などを効果的に発揮できる術(すべ)を持っている。

 東京Vは、その点の1つとして、パスを繋ぐ形に力を入れていることで「主体的に戦う時間を長くできる=守勢に回る時間を短くできる」ということができていた。この試合でも岡山もプレスにトライしていたが、ほぼ高い位置で奪う事はできなかった。

 足を滑らせるアクシデントがなかったり、岡山が決めきれなかった前半の決定機を東京Vが決めていれば、また違った戦い方ができたかもしれない。

 攻撃面に目を向けて見ると、名手ということがしっくりくる攻撃の形ができている。サイド深くまで進入した時のクロス意識の高さ。これは、意図的にそういった攻撃にトライしていることは間違いない。

 ドリブルやパスで崩すという事もできるはずだが、東京Vは、クロスを入れて行く選択が多い。シンプルにクロスを入れていく事でも、点で合えば、人数が少なくても、高さで負けていても得点に繋げることができる。これもまた後に一定数の人数を残すという観点から、堅守の理由の1つと言えそうだ。

 それと同時にゴール前を固められた時によりクロスでの得点も難しくなるという観点からアウェイでの移動の疲れを考慮しての省エネのサッカーであると、逆に難しいゲームとなる。つまり、重心が重い動きの少ないチームに対しては、東京Vの良さがやや半減してしまうのだ。

 アウェイだとホームのチームがアグレッシブに戦ってくることで、相手チームに隙が生じる。そこをアウェイである東京Vが、岡山から2点奪ったように、点を点で合わせて得点に繋げる。そこが、アウェイでの東京Vの強さの秘密の1つの可能性も十分考えられる。

 岡山基準で考えると、本来は、アウェイでの移動の疲労で運動量が落ちると苦しくなる面がある中で、東京Vに置き換えると、逆に対戦チームがの重心が後に残ってしまう事で、隙が生じ難くなる。この前掛かりになる隙に対して、再三指摘する東京Vのホームでの解説者や実況の方の会話を聞きながら、そして、実際に東京Vのサッカーと岡山のサッカーを観ていて、その可能性も十分あるのではないかと感じた次第である。


4、繋ぎの中のドリブル~岡山編~


 岡山と東京Vのビルドアップの基本的な部分は同じであるが、重視するポイントと最後の崩しのアプローチが違う。

 岡山の得点を狙う崩しのアプローチとして、速攻ができればサイドと中央問わず、前に運ぶ、省略する意識を感じられる。また、相手陣地に隙が無い時は、ドリブルとキープを混ぜて、探りを入れつつ、弱い所にパス交換やスルーパスで穴を開けていくという攻撃もできる。

 この崩しのアプローチをする上で、大きな役割を担っているのが「ドリブル」である。マークを剥がす「ドリブル」とマークを引き付ける「ドリブル」の狙いの違う「ドリブル」が、岡山の「繋ぐ」サッカーで、攻守で大きな意味を持っている。

マークを引き付ける「ドリブル」を分かり易く「キープ」と表現すると44仙波 大志の「仙波クルクル」や41田部井 涼「引き付けてからの展開のパス」、6輪笠 祐士の「密集地帯から緩和地帯に抜けてからのパス」。こういったドリブルの選択は、パスを打開したい怖い場面でも、ボールロストを恐れずに、岡山の選手は、積極t系に採用する。ここが、個人的に岡山の繋ぐ(パス)サッカーであり、岡山スタイルのカラー(個性)ではないかと感じている。

 そして、WBの42高橋 諒と17末吉 塁は、局面を打開する「ドリブル」を積極的に採用する。イメージ的には、中で「キープ」して、外を「ドリブル」で突き破ることができることで、ここ数試合は、上手くチームとして機能している。

 16河野 諒祐の時は、右サイドの時に「抜く」or「奪われる」という勝負の選択肢のプレーが多かった事で、前に運ぶ推進力の部分や味方が上がる時間をなかなか作れなかった。17末吉 塁は、こうした攻撃だけではなく、守備でも90分間走れるスタミナを武器にファーストディフェンスとして、寄せにいく事で、岡山の守備の弱点であった右サイドが、岡山の守備の安定に繋がっている。

 逆に、16河野 諒祐は、東京Vのように点で合わせるシンプルなクロスが武器なだけに、チームの細かく「パス」を「繋ぐ」意識が高まって行く中で、22シーズンにはあまり目立たなかった粗い部分が、23シーズンは目立つになっていた。

 この辺り、16河野 諒祐が、怪我から復帰してもファーストチョイスは17末吉 塁となることは間違いない。やはり前線の武器が「高さ」ではない以上は、16河野 諒祐の「クロス」を活かすことは難しく、弱点である「守備の隙」が目立つことにも繋がり、止む得ない立場の変動であり、それだけの17末吉 塁の補強は大きかったと改めて感じる。

 岡山のこうした局面を打開する「ドリブル」だけではなく、状況を良くする「キープ」ができる選手が増えた事で、その選手に敵味方の「視線」が集まる中で、相手選手を引き寄せることで何処かに隙を生じさせる。味方がフォローにいく事で、攻守の場面でのフォローにいける時間や状況を作る事ができ、距離感が良くなり、攻守での安定に「繋がっている」。

 東京Vの「繋ぐ」のカラーは、「クロス」を軸にすることでの自陣の隙を少なくして、少ない人数で決めきる東京Vの「基礎技術」を前面に出したサッカー、そこに城福 浩 監督の熱さ、球際での「デュエル」という名の「ソウル(魂)」が加わる事で、ここまで勝ち点を積み重ねてきている。

 岡山は、「繋ぐ」のカラーは、「ドリブル」を軸にすることであり、2種類ドリブル(打開のドリブル&好転のキープ)を使い分けることで、攻撃的に行く中でも守備の隙をカバーできる安定感に繋がっている。爆発力が、課題であったが、次の章では、その決定力というラストピースを埋めた存在である事を示すデータを紹介して、今回のレビューを終えたい。


5、エースの存在感~唯一無二~


 7チアゴ・アウベスのスタメン出場試合、途中出場試合、未出場試合の戦績を一つのデータとして紹介したい。

スタメン出場試合(10試合)
4勝5分1敗(勝率40%)
12得点7失点(1.2得点、0.7失点)
途中出場試合(8試合)
2勝4分2敗(勝率25%)
9得点7失点(1.125得点、0.875失点)
未出場試合(14試合)
3勝7分4敗(勝率約21%)
19得点20失点(約1.35得点、約1.42失点)

 あくまで、1つのデータであり、岡山の状態や対戦チームの状態も関係しているが、7チアゴ・アウベスが、スタメン出場した試合の勝率は高い。

 そして、7チアゴ・アウベスが出場した試合では、1試合換算の平均得点が平均失点を大きく上回っているが、未出場試合では、僅かではあるが、平均失点が、平均得点を上回っている。

 やはり、これは、7チアゴ・アウベスが、攻守で良い効果をもたらしている事を示すに十分なデータと言える。

 唯一無二のストライカーが、怪我が多いという事だけで、チームとしてのパフォーマンスとして大きなリスクであり、そこを決定力で補える選手でないと、チームの成績が落ちてしまう事は仕方ない。

 18櫻川 ソロモンが、強くて高くても7チアゴ・アウベスのような決定力は、流石に期待できない。48坂本 一彩にも、7チアゴ・アウベスのように降りてこずにDFラインと駆け引きしたり、周りを気にせずに強引にシュートを狙うようなプレーを求めることは、選手気質やプレースタイル的にも難しい。

 どんなに組織的に戦えたとしてもチームには、メッシやクリロナ、イブラヒモビッチのようなスペシャルな選手が、何かを手にするときには、必要となってくる。もちろん、組織が個を越える事もあるが、少なくとも今季の岡山では、データとしてはっきり出ている。

 自動昇格が理想だが、現実的ではない。そうなるとプレーオフに滑り込めるかどうかであるが、私は、やはり7チアゴ・アウベスが怪我しない事。これは、岡山が勝てるかどうかを左右する条件に近いと感じている。

 データは偶然かもしれないが、実は、データ以上に、7チアゴ・アウベスの存在の大きさを感じているサポーターの方も多いのではないだろうか?

 100試合出場の時の藤枝戦の時は、藤枝選手の退場者がでたことより、7チアゴ・アウベスの負傷交代が衝撃が大きく上回って、痛恨に感じたサポーターは、私だけではないはずだ。

 逆を言えば、他クラブからは、7チアゴ・アウベスの獲得に躊躇うチームがいても不思議ではなく、資金力のあるチームに勝てない岡山が、ネームバリューや実績のある実力者を多数獲得できない岡山が、そこを覆して勝利に繋げられる可能性を秘めた選手でもあるという事でもある。

 残り試合を、岡山の強化部の判断として、この部分にかけるという決断は、リスキーでもあるが、理に適っていることもまた事実である。

 岡山が、前掛かりになった所で、しっかりシュートで終えるだけではなく、得点に繋げられる。決められなくても決定機にできることで、相手チームに心理的な動揺によるダメージを与えられる7チアゴ・アウベスの存在の有無が、残り試合で「奇跡で頂のリーグへ!」を達成できるかどうかは、エースである7チアゴ・アウベスにかかっている。

 何故なら7チアゴ・アウベスが、エースだからだ。それが、エースという存在ではないだろうか?

文章=杉野 雅昭
text=Masaaki Sugino


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