沈む寺【毎週ショートショートnote】
「なぁ知ってるか? 山の上にある寺の秘密」
小学五年生のヨウは声のトーンを落とし話し始める。
「いや、知らないな」
ヨウの同級生であるアオは首をかしげる。
「あの寺な、沈むらしいぞ」
ヨウが興奮を抑えきれない様子で話す。
「寺が沈む? どういうこと?」
アオは説明を求める。
「あの山には対空ミサイルを撃つ基地が隠されてて、戦争のときは寺が沈んでその基地が顔を出すんだって」
ヨウは目を爛々とさせている。
「……それ、本当かもな。あの道やたら重機が通るんだよ。山頂には寺しかないのに」
アオは腑に落ちた様子だ。
「寺が沈むとかスゲーよな! 見てみたくね⁈」
――
それから七年が過ぎ、二人は高校卒業を機に街を離れることになった。
その間、寺が沈むことは一度もなかった。
二人は思い出話に花を咲かせる。
「ほんと、いい街だったよな」
「だな。あの寺が沈むこともなくて本当によかった」
ヨウは山頂を見上げて話す。
寺は今日も街を見守っている。
(410字)
前回に続き、たらはかに(田原にか)様のこちらの企画に参加させていただきました。お読みいただき、ありがとうございます。