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ジンジャークッキーイブ【毎週ショートショートnote】
「お待たせしました生姜焼き定食です!」
高校二年生の駿は熱々の料理が乗ったトレーを客に差し出す。
昼の「藤田食堂」は大忙し。狭い店内はガヤガヤと賑わい、腹から声を出さないとたちまちかき消される。
「カツ丼のお客様ー!」
店主夫妻の一人娘である桜も、駿と同じ高校二年生。冬休みは家の手伝いだ。不慣れながらせかせか動き、声を張り上げる。
「ランチ終わり! 疲れたー!」
駿は頭巾とエプロンを外し、ドカッと椅子に座る。客が消え、湿気が残る店内が冷え込んできた。
「駿くんお疲れ。あの…………」
「ん? どうした?」
桜はもじもじしながらラッピングされた袋を手渡し、駿は目を丸くする。
「クッキー焼いたの。ジンジャークッキー」
「……マジで?」
女将がニヤニヤと顔を覗かせる。
「二人とも、今夜のシフトお休みでいいわ。毎日頑張ってくれてるから、お給料はつけておくね。メリークリスマス♪」
しばし店内は静寂に包まれたが、やがて二人は立ち上がり、曇った引き戸をガラガラと開ける。
商店街のイルミネーションが、やけに輝いて見えた。
(451字)
久しぶりに、たらはかに(田原にか)様のこちらの企画に参加させていただきました。「だいたい410字くらい」という文字数を大幅オーバー。
お読みいただき、ありがとうございました。