私学で働きたい人が増えている?


私学教員志望の若者たち

 昨年のことですが、私の勤務校で「教員志望」の若い人たち十数人を半日ほどの職場見学で受け入れるというできごとがありました。私も管理職に頼まれて彼らの対応に動員され、数人の方たちと個別に面談したり、彼らからの質問に答えたりしました。その中で非常に印象的だったのは、私が対応した方たち皆さん一様に「教員になりたいが、それは公立ではなく私立の教員なのだ」と言っていたことでした。

20数年前の私の話

 私が教職を目指す大学生だった頃は、まさに「就職氷河期」のまっさかり。さらに第2次ベビーブームのピークを成した子どもたちがあらかた高校を卒業して時代が少子化へと向かうタイミングとも重なり、全国的に教員採用試験は高倍率の狭き門となっていました。私も地元自治体の公立教員採用試験を受けましたが、「採用予定者1名」のところに数百名の志願者が殺到している状態で、受ける前から「こんなのうかるわけないじゃん…」と思いながら受検していたのを思い出します。
 採用試験が天文学的な倍率になっていたのは時代的にもやむを得ないことだったのかもしれませんが、さりとて大学を卒業してからも収入がないのは困りもの…。そんな私の前には、いくつかの選択肢がありました。

  1. 塾講師

  2. 非常勤講師(公立学校)

  3. 私学の教師

 上記1、2については、自分自身が小学校から高校まで公立の出身だったこともあり、実際に「生徒」としてそういう立場の先生たちと向き合ったこともありました。大学の先輩でもそのようなルートをたどって公立教員になった人は少なくなかったので、自分も「将来的に(公立の)採用試験に合格したいけど、それまで何年かはこんな感じになるのだろうな…」くらいに考えていました。
 そんな私が私学の教員採用試験を真剣に検討するようになったのは、地元自治体の公立採用試験に不合格をくらった後のことです。当時私の通っていた大学の教務課には「私立学校からの求人票」をまとめたバインダーがありました。「このままでは来年は無職になってしまう!」と焦った私はわらにもすがる思いで教務課のカウンターに駆け込み、バインダーのページをめくっている中で今の勤務校の求人票をみつけました。学校名をみても「これ高校の同級生が滑り止めに受けたって言ってた学校かな?」以外の印象はなく、当然学校の校風や教育方針はおろか、所在地や最寄り駅さえわかりませんでした。とりあえず採用試験に出願するために履歴書などの書類を学校に送った後で、当時高校生だった弟が受験生の時に塾に買わされていた「県内私立高校カタログ」みたいな本を読みあさり、「男女共学である」程度の基本情報を知ったくらいです。今にして思えば、「県立高校第一志望」の中3生が併願私立高校のことをまったく知らずに入試日当日を迎えたり、そのまま入学してしまったりするのとほとんど変わらない状態ですよね…。
 私が塾講師でも公立の非常勤講師でもなく、私立の(専任)教員になろうと決めたのは、給与や待遇面のことを最優先にしたからです。いつかは公立高校(あるいは中学でも)の教員にはなりたいが、それまで非正規雇用(バイト)で不安定な生活になるのはできるならば避けたい…。そんな思いで今の学校に入職した20代の頃の私は、「いつかは公立の教員採用試験に合格してやる!」と企んでいたのですが、やはり専任教員の待遇が安定しているのはそれなりの理由があるわけです。教科の授業やその準備がたいへんなのは当たり前ですが、担任やクラブ顧問の仕事がどんどん忙しくなっていったり、だんだんと生徒募集などの責任のある仕事も割り当てられるようになったりして、結局公立の採用試験は一度も受けることがないまま二十数年が経過し今に至っています。

私学をめざす皆さんへ

 こうして「滑り止め先生」から始まった私の私学教員としてのキャリアでしたので、教員志望の優秀そうな若者たちに「先生をやるなら公立ではなく私立がいい」などと言われてしまいなんだかモヤモヤするような不思議な気分になりました。
 一方で、そんな「(最初から)私学教員志望者」のみなさんと話してみると、意外と「私学教員の生活って実際どんな感じなのか?」「公立の先生たちとどうちがうのか?」といったかなり基本的なところで誤解されていたり、わかっていないところが多かったようにも感じました。たしかに、大学生協には公立のキョウサイ(教員採用試験のこと)の対策問題集などは売っていましたが、私学のキョウサイに関する情報本なんてありませんよね。

  • どうやったら私学の教員になれるのか?

  • そもそも星の数ほどある私学の中から、どうやって選べばいいのか?

  • 私立の先生と公立の先生って何が違うのか?

  • 私学ではたらくことのメリットやデメリットって何?

 こういった疑問には、身内に当事者でもいない限り、なかなか実感をともなった情報は得にくいのかなと思ったりもします。私は今の勤務校でさまざまな職務経験をさせてもらいましたし、とくに生徒募集の仕事では他校の管理職や中間管理職(的な先生たち)とも情報交換させていただく機会も多かったので、主に首都圏私学の平均的な雰囲気というか一般的な傾向みたいなものはつかんでいると思います。
 私にとっては「当たり前」で「そんなたいしたものでもない」と思うような情報なのですが、役に立てていただける人がいるのかもと思い、今回一念発起してこのnoteを書くことにしました。想定している読者は「私学で教員を目指す若い人たち」ですが、そういう若い先生たちがいきいきと活躍できている学校はほぼ例外なく「生徒が自分らしく活躍している学校」でもありますので、中学・高校受験生保護者の皆さんにとっても「学校選び」のヒントにもなるかもしれません。特定の学校名をあげてオススメしたり悪口を書いたりすることは絶対にしませんが、私の文章を読んでくださった方が、今までよりもちょっと違った視点や解像度で「私学」を見ることができるようになっていただけたらいいな〜と思っています。
 仕事の合間をぬって少しずつ書き進めていく感じになりますので、更新はちょっとのんびりペースになってしまうと思いますが、ぼちぼちお付き合いください。

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