壁面本棚計画①
「次は、何するの?」と尋ねてくれたのは、建築士の吉川徹さんだ。
「壁面本棚を作りたいと思ってるんです。」と私は、即答した。
「手伝いますよ。」と、気さくに言ってくださったので、「そんなことを言われたら、本当にお願いしちゃいますよ。」と言ってみたら、「いいですよ。」と。
吉川さんに、本棚の設計をお願いできるなんて、こんなにありがたいことはない。
そんなフランクなやりとりを、最初にカウンターでしたのがいつの頃だったのか。
とにかく、最初の打合せは、2021年の1月31日だった。
私が、少し疲れて店を閉めている最中だ。
本は重量があるので、本棚は、家具として、しっかりしたものでなければならない。
壁面本棚と言って、巨大なものになるとしたら、木材の費用も馬鹿にならない。
Tetugakuyaの事情を察してくださっている吉川さんの最初のアイディアは、布を使うというものだった。
なるほど、これは、コストを削減し、同時に頑丈で、アンティークテイストな本棚のデザインだ。
けれども、私の理想としているデザインは、ヨーロッパの伝統的な書庫だった。
大体、私が理想とするデザインは、アンティークなもので、今再現しようとすると、コストがかかるような気がする。そういうところを考えなしに、店内の方向性を定めてしまったらしい。
もう少し、こういうデザインがいいなどと言いつつ、スマホから拾った画像を、吉川さんに見せる。
私が吉川さんに見せた写真は、とにかくずっしりとした重量感が感じられる一つの家具か、何世紀も前から続く図書館の内装で、たっぷりのモールディングが施されていた。
吉川邸の猫シマ・グスタフ2世が、うろうろしていたので、時々彼を撫でながら、打合せは続く。
今思うと、私は、店舗設計を考えるのには向いてないのかも知れない。
店舗の目的は、売上を上げることであり、何もそこで人が暮らすようなことはない。だから、コストを削減して、それっぽい雰囲気があれば良いのだろう。
そもそも、本棚を作ったところで、売上の増加につながるとは到底思えない。読書するお客さんが増えたところで、滞在時間は伸びて、回転率は落ちるだろう。
そんなに本棚にこだわって、コストをかける理由は、ないのかもしれない。そもそも、本棚を作っている場合か、とツッコみたくなる。
そういうところが、本当のところ分かってないので、私は、経営者に向いていないと思う。
一緒だったフォトグラファーのOshima Sunsuke氏と共に、美味しいお食事までご馳走になった。
そもそも、本棚を作るのは、本を愛する人から、大量の本の寄贈を受けたからだ。
そして、私は、お客さまの手に届くところに、それらの本を並べることを約束した。
本を寄贈してくださった方の思いは、並々ならぬものだった。その想いを大切にしたい。
ただ、そういう理由だ。
本がたくさんあるのは、Tetugakuyaにとっては、決して悪くないだろうと思う。一方で、現状では、本棚が足りていない。
既製品の本棚では、店には合わない。それなら、作るしかない。
写真は、フォトグラファーのOshima Shunsukeによる。
丸亀にも事務所を構えている吉川さん。
東京でも、ナイルレストラン含め、複数の店舗や個人宅の設計を行っており、『銀座ナイルレストラン物語』の中にも登場する。
高名な設計士吉川徹
店舗創作は、果てしない道なのだ。その道中に、さまざまな人と出逢いながら・・・。