同じ服を着る効用
漫画誌の編集に携わるようになって二年弱が経つ。
それまでは文芸書を中心に実用書や写真集など、一般書籍の編集をしていた。大好きな仕事だったけれど、一生編集者として生きていくために、どうしても漫画の編集スキルが欲しくて、転職をした。理想的な順序でいうと、本音を言えばもっと若い頃にやってみたかったのだけれど、わたしはかなり回り道をして、今の仕事にやっとたどりついたので、それでもありがたい話である。
漫画編集をやってみたかった理由は、明確に一つある。エンターテインメントの基礎が、文芸とは別の切り口から学べるような気がしたのだ。
そしてそれは正解だった。その中の一つに、キャラクターの作り方がある。
漫画ではとにかく、キャラクターが重視される。そのストーリーをキャラクターが背負えれば背負えるほど、いい。
でも、キャラクターは好きになってもらえなければ意味はない。好きになってもらうにはどうしたらいいのだろうか。
その答えは、もちろん一つではないのだが、あるとてもわかりやすい方法をご紹介したい。
それは、二段階から成る。
①よく覚えてもらうこと
②そのイメージを裏切るような性質をもたせること
このキャラづくりというのは、編集の仕事についているいないに限らず、意外にバカにできないノウハウである。というのも、この理論をうまく応用すれば、実生活でとても人に覚えてもらえやすく、さらに愛されやすくなれるはずだからだ。
イメージを裏切るような性質というのは、たとえば、ドラえもんの「ネコ型なのに、ネズミが嫌い」というところ。実在の人物でいったら、芸能界にはかなりこのタイプの人がいる。ギャル曽根さんの「大食い女王だったのにスタイルがいい」なんていうのも、その一例だ。
しかし私がこのnoteで強調したいのは、①の段階についてである。②の性質というのは、あくまで①の刷り込んだイメージあってこそ生きるものだ。大前提、ともいえる。
すごく秀麗な容姿だったり、奇抜なセンスだったりを持っていないかぎり、すぐに覚えてもらうのは困難だ。では普通の人はどうしたらいいのか、というと、何度も繰り返し同じイメージを再現すればいい。つまり、いつも同じ自分でいればいい、というわけだ。
そこで、同じような洋服を着る、という提案をしたい。それはイメージを他人に刷り込む上で、かなり助けになるようなのだ。
漫画の話に戻ると、有名なキャラクターというのはとにかく着替えない(!?)人が多い。ユニフォームが決まっていて、おまけに髪型もおんなじだ。
そういう話題をすると、かならずみんなが例に出すのが、スティーブ・ジョブズで、彼はいつも、イッセイ・ミヤケの特注の黒のタートルネックにリーバイスのジーンズ、そしてニューバランスのスニーカー、という服装だったのはあまりも有名である。
納得する形で、たった一つの服装を選び取れたらきっと幸せに違いない。でもさすがに、会う人に気を使う必要があったり、子育てや介護に集中しなきゃいけなかったり、あるいは謝罪の機会があったり、普通のひとは、そこまで徹底するのは無理だ。もしかして、人生のステップが変わったら、それも可能かもしれないけれど、少なくともわたしは、今すぐにジョブズにはなれない。
だからこそ、同じ服装、よりもう少し広い<同じスタイル>を見つけることが生きやすくなるヒントになる。
自分の制服とも言うべき、スタイル。たとえば私の場合は、細身の体の線が出るコットンパンツにジャストサイズかオーバーサイズのメンズライクなトップス。興味深いことに、これを徹底すると、内面的な意外性ではなく、時折着るドレスや、ジャージ姿さえもが他人に面白く映るらしいことがわかった。
いつもが大体同じからこそ、そこから逸脱した格好は、言葉より雄弁に私の態度を物語ってくれる。
というわけで、特に際立ったポイントがない私でも、知らないうちにキャラが立ってきた。これは、服を買わない1年間の、思わぬオマケであった。
この記事は投げ銭制です。このあと、個人的な話題を書きました。
GUCCIの可愛さについて。
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