メイクと髪型のリニューアル②

サボっていると、メイクはすぐに古臭くなる

松尾たいこさんのエッセイ『東京おとな日和』の編集を担当させていただいていたとき、「ほー!」と感心したことがある。美容に詳しいお友達からのアドバイスで、松尾さんはメイク用品をシーズンごとに買い替えているそうなのだ。同じ化粧品を使っていると、古臭い顔になりがち。メーカーはトレンドに合わせて毎年新作をつくっているわけだから、それをどう使うか理解してメイクすれば、自然と「今の顔」でいられるというわけ。

それを知っていながら、出産やら転職やらでてんやわんや、しかも女性誌を読まなくなってことも加わって、ここ2~3年、わたしはメイクについて何の情報更新もしていなかった。

違和感を感じたのは、春の朝、鏡を見た時だ。3色塗り分けのアイシャドーの感じが、どうも服とちぐはぐなように感じたのである。なんかわたし、古臭いんじゃ……。そう、わたしを突き動かしたのは、危機感であった。

そうして、かねてからの知り合いだった、ヘアメイクアーティストのSatokoさんに連絡をした。Satokoさんは、メイクレッスンのプロでもあり、完全紹介制で一般向けにレッスンをされている。

Satokoさんからは、当日、好きな雰囲気の服を着てくるように、とアドバイスがあった。私はもう何年も着たおしているお気に入りの黒いノースリーブと細身のジーンズで、代官山にあるSatokoさんのスタジオのドアをたたいた。

・日焼け止めをつけるときにはスポンジで無駄な液を吸い取る。

・その場ですぐ目が大きくなるマッサージがある

・流行りのコントゥアリングメイク 日本人用の色分け法が存在する

・フェイスパウダーはティッシュに出してからブラシにつける

・チークは耳たぶと顎さきにもつける

…などなど、ベースメイクだけでもかなり新鮮な知識をたくさん授けてくださった。そして、流行り顔を作るためにSatokoさんが提案してくださったテクニックのなかで、とくに衝撃的だったことが3つある。

①アイシャドーは単色でよし

②アイラインはインラインのみにすると抜け感が出る

③眉毛はちょっと逆立てる

 私はアイシャドーは3色塗り分け、アイラインは外にしっかり、眉毛はなでつけていた。それらのテクニックは全部数年前の雑誌で仕入れた知識である。たった数年でここまで変わるなんて…。メイクの変遷、おそろしい。

すっかり新しいメイクにしてもらった顔で全身の映る鏡の前に立つと、何年も着ているジーンズとカットソーが、新しい服のような印象に変わっていた。おまけに簡単にできるヘアアレンジのレッスンまでつけてもらって、美味しいお茶を飲みながらファッションの話をして、レッスンは終了。費用は、美容院にカットに行くくらい。まさに命の洗濯のような時間であった。

やはり、髪型同様、首から上のリニューアルは大事だ。

新しいといってもかなりナチュラルなメイクだったので、レッスン後、迎えにきてくれた夫(メイクが濃いのが嫌い)にも好評だった。

Satokoさんは、一流メゾンのコレクションのメイクからトレンドを読み解いていくのだそうだ。はっきりいってそんなの専門家にしかできない。雑誌で読むのも一つの方法だし、勘のいい人ならそれで上手にトレンドのヘアメイクを再現できるのだろう。けれど、レッスンを直で受けてみて、実際の手の動きや雑誌に載っていない細かな情報の大切さを痛感した(たとえばまとめ髪の今風の崩し方など。爪と爪の間に毛を入れて引き出すのがコツだそう)。そして私はそこまで勘がよくない。だからやっぱり時々は、プロの手を借りたい。それが私にとって新しいメイクのトレンドを取り入れる一番の近道だと思う。

実は以前にも、メイクレッスンはある有名なところで一度受けたことがあった。その時は、バッキバキにファンデーションを塗られた、しっかりメイクに衝撃を受けて、何も学ぶことができなかった。だからメイク自体、私には向いてないんじゃないかと半ばあきらめていた。

今回、Satokoさんにお願いしようと思ったのは、Satokoさんのファッションセンスが好きだったことが大きい。そしてご本人のメイクが、ナチュラルで自分のしたい方向性と近かった。そうした判断が、正解だったようだ。

美容室同様、洋服を1枚買う前に、自分のセンスに合った先生を探して、メイクのレッスンに行ってみることをおすすめしたい。古い服を新しい服と錯覚できるくらい、新鮮な自分の顔に出会えることを保証する。

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杉田千種
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