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産院日記 1日目

明日子供を産む予定だ。
胸に去来するのはなんといっても「逃げ切った…」と言う思いである。
もちろん、コロナから、だ。

かかりつけの産院の先生は、早くからワクチンを打つことを勧めてくださった。

コロナウイルスにかかると、分娩に差し障りがありうることを早くから提唱し、毎日の検温と、家族以外と食事をしたかどうかのアンケートを配布し、注意喚起もしてくださった。

とにかくコロナにかかるとまずい、ということだけわかった。先生の指導の通り、会食をゼロにし、毎日検温した。しかし情報が不足していたため、お茶くらい友達と飲んでもいいのではないか、という気持ちになることもあった。そのため自分なりに調べまくった。

私の強みは人より早くたくさんの文章が読めることくらいしかない。なので、とにかく医師の書いた文章を読み漁った。数をこなせばこなすほど、マスクを外して人と会うのは避けた方がいいことがわかり、妊娠中にワクチンを打ってしまった方がいいという結論に近づいた。5月ごろには、早くワクチンを打てる方法を模索し始めた。友人の紹介してくれた職域接種と仕事が重なってしまった時には暗い気持ちになったが、運がいいのか悪いのか、それでも持病に脂質異常症とアレルギー喘息があったため、通常より早く基礎疾患枠での予約が取れた。

2回のワクチンを打ち終えたのは7月の終わり。夫も運良く、これまた友人の紹介で7月下旬に接種を終えることができた。

そうして接種から10日ほどが経ち、安心すると同時に、デルタ株が猛威をふるう第五波がやってきた。重症化は防げても、感染は100パーセントは防げない、しかも、子供もかかりやすいという。もうそこからはコロナから逃げ切ることしか考えなかった。

息子には申し訳なかったけれど、事情を話して学童クラブと習い事を休んでもらった。遠くに遊びに連れて行くこともできず、ワクチン接種済の両親の住む実家の庭で遊ばせるだけの夏休みになってしまった。買い物はほぼネットスーパーに切り替えた。産休に入ってからは、公共交通機関に乗ることを一切やめた。

そうした中で、新生児が亡くなるショッキングな事件が起きた。それは私が数ヶ月前から最も恐れ、避けたいと思っていたシナリオそのものだった。あまりにも恐ろしく、当事者の方の気持ちを思うと気が狂いそうになった。

9月に入ってからは、息子の新学期に肝を冷やした。ニュースでは、学校生活での感染拡大の可能性が毎日報じられていた。息子は年齢から、ワクチンは接種できない。私たちはワクチンを打っているとはいえ、感染は100パーセント防げるわけではない。息子が感染し、お産直前に私が濃厚接触者になってしまったときにどうなるのか、具体的な想像はまったくつかなかった。

そうやって怯えながら数日間を過ごし、今日やっと入院となった。だから今は痛みへの怯え(計画無痛分娩なのもあるんですけど…)より、コロナから逃げ切った達成感が優ってしまう。

夕方入院し、出してもらった産院の夜ごはんはとてもおいしかった。もちろん料理そのものがとても美味しいのもあるけれど、私自身、今日がこの数ヶ月間の中で最もリラックスできている。

この清々しさのなかで、明日のお産もうまくいく予感がする。

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杉田千種
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