好きなアーティストを語る-ASKA-
今回は、ソロアーティスト、ASKAを紹介する。以前CHAGE and ASKAについて語る記事を書いたので、またASKAかよと思われるかも知れないが、CHAGE and ASKAにおけるASKAとソロアーティストとしてのASKAでは、また違った魅力がある。本人は「意識していない」と語っているが、私が思うにソロのASKAは、より人間としての生々しさを歌詞や旋律に表している。これは個人的な感想なので、ぜひ聴いて感じてみてほしい。
まずはこの曲
①「MY Mr LONELY HEART 」(1987年)
まずは、彼のソロとしてのデビュー曲から。ASKAは「デイヴィッド・フォスターの音楽に衝撃を受けて、自分が赤子のように思えた。そして音作りから見直していった」と公言しているが、この曲もその影響を受けて制作された一曲なのではないかと思われる。下の動画は、2002-2003年頃のライブ。
②「はじまりはいつも雨」(1991年)
次に、ミリオンヒットを記録した彼の代表曲。美しい旋律にロマンチックな歌詞が刺さる。「今夜君のこと 誘うから 空を見てた はじまりはいつも雨 星をよけて」このフレーズに魅了されてASKAを聴き始めた。そして個人的には、2番サビ後の間奏部分がとても好きだ。転調があまりにも美しすぎる。
③「けれど空は青」(1991年)
次は、シングルカットこそされていないものの、ソロ曲の中で燦然と輝くこの名曲。壮大で、かつ繊細でもあるASKAの歌声の魅力が詰まっている。この曲は「close friend」と副題が付いている通り、傷ついた友に向けて歌われた曲で、その包み込むような歌詞に注目してほしい。ところで、彼の曲の魅力の一つに「Cメロ」が挙げられるが、この曲のCメロも例にもれず素晴らしい。
④「月が近づけば少しはましだろう」(1995年)
個人的には、彼のソロ曲の中で最も好きだと言っても過言ではない。「角を曲がるといつも、消えうせてしまう言葉だけど 心の中では 切れて仕方ない」「この指の先でそっと 拭き取れるはずの言葉だけど 積もり始めたら 泣けて仕方ない」「動きたくない 身体を毛布に沈めて聴いてた 鳴り止まないサイレンの音 胸の音なのか」これらの言葉に幾度となく救われた。彼の歌詞は抽象的で分かりにくいと言われることがある。しかし、だからこそ、自分がどんな状況にあっても寄り添ってくれるのだと思う。驚くべきは、この曲が彼の全盛期に作られた曲であることだ。当時彼が人知れず感じていた苦悩が表されているのかもしれない。
下の動画は、2008年、彼が50歳時のコンサート影像である。喉こそ本調子ではないが、寧ろこの曲にはこの声の方が合っている。そして、全身が楽器とはこのこと、と言わんばかりの表現力にはただただ脱帽。もはや何かが降りているのでは無いかと思わせる歌いっぷりだ。最後のコーラスでは、喉が開きすぎて倍音しか聞こえないというバグまで起こっている。間違いなくこの曲のベストテイクだろう。
⑤「君が愛を語れ」(1992年)
心地よいメロディーと歌詞の中に切なさが感じられる名曲である。好きなフレーズは、「すべてが時計回りの中 はじき出された夢の破片で もしも僕が倒れたならば 君が愛を語れ」。この曲は1,2番共にサビの最後に「君が愛を語れ」というフレーズが入ってくるが、最後のサビでは「愛が愛を語れ」となる。私は、この歌詞を「自分と相手が倒れて居なくなっても、二人の間に存在した愛は永遠に生き続ける」と解釈する。一番の聴き所は、Cメロの雄叫びとも聞こえるほどの熱唱である。
⑥「FUKUOKA」(2017年)
2017年といえば、彼が薬物事件で逮捕され、執行猶予が明けたばかりの年である。彼は事件を機に一度は引退を決意し、色んな関係者に引退報告と感謝の電話をかけていた。しかし、玉置浩二をはじめとした殆どの人に「何言ってるんだ、ホラやりますよ!」と説得され、心機一転活動を再開したという。この曲は、彼が再起して初めて世に出した楽曲。当時、マスゴミにやりたい放題の仕打ちを受け、誰も信じられなくなった彼を温かく迎えたのは、他でもない地元、福岡だった。そこで、彼は再起にあたって、TV出演からコンサートまでの全てを地元である福岡から始めた。そんな故郷への想いを歌った曲である。それと同時に、彼の才能は全く涸れていないこと世に知らしめた曲ともいえるだろう。
⑦「Fellows」(2017年)
ASKAが復活に向けた決意を表明した歌。「最後まで 膝をつくまで 見せられない涙がある」。この言葉に幾度となく勇気づけられた。ギターをかき鳴らし吠えるように歌うのがソロアーティストASKAの真髄だと気付かされる一曲である。
⑧「歌になりたい」(2019年)
リリース当時はメインのサビを本人が歌わないスタイルに不満を抱いていたが、聴けば聴くほど心に沁み、今では大好きな曲となった。聴くと、旋律の中に不規則かつ奔放に歌詞を当て嵌めているように思えるが、それでもって完全体となっている。そしてこの壮大な世界観は、まさに彼にしか紡げないといっていいだろう。年を経る毎に、その時その時の彼にとってベストな曲を生み出していく才能には脱帽である。
⑨「東京」(2018年)
再起後ASKAのポップな曲調を代表する1曲。明るさと寂しさが同居する旋律と歌詞。メロディーで心を持っていき、あとから詞でガツンと心に訴えてくる。彼の音楽の魅力はここにあると思う。動画は、30年以上付き添っているバンドメンバーとの絆が感じられる良いMVなので紹介する。
番外編
以上、AソロアーティストASKAを知ってもらおうという趣旨で、まずは9曲を紹介した。ここからは番外編として、女性とのデュエット曲、そして他アーティストへの提供曲を紹介する。
デュエット曲
①「you and me」(with 黒田有紀)
歌詞が素晴らしい。多くを語ると野暮になってしまうが、恋する相手への優しい気持ちと切なさ、将来への不安、今を大切にしたい気持ち、色んな想いが詰まっている。youtubeにライブ音源があったので、紹介する。
②「Love is alive」(with 岩崎(益田)宏美)
歌詞は勿論、二人のハーモニーが美しい。特にCメロからラスサビにかけての盛り上がりに胸を打たれる。二人は公私共に仲が良く、ASKAが逮捕された時も岩崎宏美は一貫して応援する姿勢を貫いた。今でも互いのラジオに出演したりと、交流が続いている。その友情を背景に聴くと、また感慨深い。
提供曲
ASKAは、数多くのアーティストに楽曲提供をしている。その中から、代表的な作品を何曲か紹介する。今回初めてしっかり調べたのだが、ジャッキー・チェン、とんねるず、明石家さんま、猿岩石、水樹奈々あたりが意外で面白い。他にも名だたる歌手に提供しているので、興味があれば確認してみてほしい。
①「伝わりますか」(詞・曲)
ちあきなおみへの提供曲。ドラマ「友よ」で共演したことをきっかけとして交流があった。この曲では、女性の哀しい「未練」を美しい旋律に乗せて表現した。異性の感覚をここまで精緻に描くことのできるのは流石の一言。ちあきなおみには他にも「イマージュ」を提供している。
②「パラダイス銀河」(詞・曲)
光GENJIへの提供曲。ジャニー喜多川氏から直々に「彼らのデビュー曲を書いてほしい」と頼まれて作った曲。曲の展開が完璧すぎて惚れ惚れする。この曲の他に「ガラスの十代」「STAR LIGHT」「荒野のメガロポリス」など10曲以上を提供し、いずれも大ヒット。最大瞬間風速はどのグループにも負けないと謳われた彼らの全盛期の立役人となった。
③「ボヘミアン」(詞)
葛城ユキを代表するシングルこの曲の作詞を担当。意外とこの事実は知られていないかも?
④「今でも…」(詞・曲)
テレサ・テンへの提供曲。とにかく旋律が美しい。ASKAの、歌い手に合わせてカメレオンのように作風を変える技術は流石としか言いようがない。
総括
以上、ソロアーティスト、ASKAについて様々な観点から紹介をしてきた。今年は、彼がアーティストとしてデビューしてから45年の節目を迎える年だ。現在、CHAGE and ASKAは実質解散状態であったり、彼自身も少し世間とずれた方向に向かっており、Twitterでの発現が炎上するなど、一般の人々からすると正直良い印象はないかもしれない。私が思うに、愛や心など、目に見えない物について扱う芸術家やアーティストは、スピリチュアルな感覚を大切にしているが故に、一般人と比べると非科学的な言説を唱える傾向が強いのではないだろうか(当然全員ではない)。
一方で、彼がこれまで書き下ろしてきた900曲以上の楽曲は決して消えることなく、永久に残っていく。そして同時に、私を含め、彼の音楽に救われてきた人々が大勢居ることも紛れもない事実だ。彼は稀代の作曲家であり、詩人であり、表現者である。彼のプライベートがどうであろうと、ここだけは変わらない。私は、良いものを良いといえる人間でありたいし、世界中の人々がそうなればいいと願っている。
彼は、2017年に再起して以来、これまでにないほど精力的に活動を続けている。活動再開から数えて6年目を迎えるが、その間にシングル3枚、デジタル配信シングルとして14曲、オリジナルアルバム5枚、企画アルバム2枚を発売。そして毎年ライブツアーを行うなど、65歳とは到底思えないハードスケジュールをこなしている。今年に入ってからは、多大なる影響を受けたアーティスト、デイヴィッド・フォスターと共同でコンサートも行った。そして毎日のように楽曲を制作し、常に新曲を届けてくれている。彼は、あるインタビューの中で「新曲を作らなくなったらあとは退化しかない」と語っており、その言葉通り、アルバムには様々なスタイルの楽曲が並んでいて全く飽きることがない。ということで、今回ははじめてASKAに触れる方向けに彼を象徴する曲を選んだものの、本当は最新アルバムに収録されている曲も含めて紹介できていない名曲だらけである。
ここで、今年「進撃の巨人」の音楽で知られる澤野弘之氏とコラボレーションしてリリースした「地球という名の都」を紹介したい。澤野氏はASKAから影響を受けて音楽を始めたことを公言しており、そこから交流がある。
最後に、この場を借りて彼が精力的に活動している様を宣伝したいので、今年行われた彼のライブツアーのダイジェストを添付しておく。
いつまでも元気で、曲を私たちに届けてほしい。あまりの体力と才能の涸れなさに、ファンとしては我儘にもそう思わざるを得ない。ずっと彼の曲で生きてきたし、これからもそうだろう。これからもASKAを応援していく。
以上