【まいにち短編】#1 香り
松茸って、大してそんなに美味しくないのに、この扱われ方は一体どういうことなんだろう。
スーパーで買い物途中、これでもかという位に貼られたPOPを見て、ふとそんなことを思う。
昔ばあちゃんが作ってくれた松茸のおこわを思い出した。
その時初めて食べた松茸は、醤油とみりんの味しかしなかった。
相当美味しいものだと母が言っていたので、とてもワクワクして口に運んだけれども、とてもがっかりしたことを覚えている。
兄や父、母がうまいうまいと食べていて、ばあちゃんはとても嬉しそうな顔をしていた。
私も、美味しいとだけ言っておいた。
ー
「うーん、やっぱりまだディレクターは早かったかー。」
今日、仕事でプロデューサーに言われた。
私は、とあるゲームのディレクターをやっている。
ここ3ヶ月ほど売上が右肩に下がってきてしまったのだ。
早かった、なんて、私が一番思っている。
なんでディレクターをやっているか、なんて、私が知りたい。
たまに社外で名刺を渡す時に違和感を覚える。
毎日朝会で上っ面の前向きな言葉を言って、反吐が出そうになる。
プランナーたちに確認を依頼された時、「いいと思う」しか言えない。
その結果がこれだ。
松茸よ、お前にその地位を守り抜く資格はあるのか。
お前に、その実力はあるのか。
ああ、松茸よ。いつかその幻想は崩れるのだ。
イメージだけでなんて、きっと長くは持たない。
それでも、きっとどこかに価値があるから、ここまでやってこれたんだろう。
炊飯器からは、香ばしい香りが漂ってきた。
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