【まいにち短編】#18 おやすみ、親知らず
親知らずを抜いた。
歯医者に行くまではネットの記事やSNSを見て恐怖に慄いていたけれど、
幸いまっすぐに生えていたので痛みも腫れもなく抜歯はあっさりと終わった。
けれども喪失感だけが残った。
私にとっては、心の痛みの方が辛かった。
「抜いた歯、どうしましょうか?こちらで処分しますか?」
「あ…いえ、持って帰ります」
さっきまで私だったもの。私の一部だったもの。私を構成していたもの。
でも要らなくなって、捨てたものだ。
治療を終えて家に帰らずそのまま両親が眠るお墓に向かい、
そっと抜いた歯を、墓石の横に埋めた。
親知らずは、両親を知ることができたかな?
ごめんね、今までありがとう。お疲れさま。
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