小沢健二 魔法的 Gターr ベasス Dラms キーeyズ
魔法的のはなしのまえに、はこちら。
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2016年6月12日 Zepp Diver City TOKYO
ライブ当日。開場を待つ列。
62番という魔法的整理番号で中に入り、向かって右寄りの前から2列目を陣取る。こんなに早い番号で呼ばれることはまずないので、黙ってずっとステージの暗幕を見つめながらの1人の待ち時間がとても長く感じる。23年ぶり。ちょっと何かを思い出してぐっとこらえたりして、1時間を地蔵の体制でやり過ごす。
開演時間。カウントダウンが起こり、暗幕は上がらず、そのまま曲がはじまる。1stの1曲目「昨日と今日」。あー23年前。わっと一瞬、感涙スイッチが入りかけたけど、すぐにこの曲こんなにカッコよかったっけ?と切り替えて意外と冷静に聴けた。サビ(?)のところだけシルエットが浮かび上がる怪しい演出。
暗幕が開いてそれから先の2時間については順序など細かいところがごっちゃになってしまったので、何となくの記述になる。隣の女性が必死にメモを取っていたから連絡先でも聞けばよかったかな。
まず、新曲は感動的なほどよかった!
あの小沢健二なので最初は口ぽかーん、になることすら覚悟して行ったのだけれど、がっちり心を掴まれていた。
ステージ上に映し出されたこれから演奏される曲の詞をじっと見る。フリッパーズ・ギターの1stの和訳のよう?とっさにクリストファー・ロビンの存在を思い浮かべた。もしかして子供に聴かせるような歌をうたうのだろうか。その後メロディに乗った歌詞を聴いてみて、ああっ!と心を揺さぶられる。ゆったりとしてファンキーでちょっと不思議でちゃんと大人のためのリズムを取りながら力強く歌う小沢健二。散々歌い尽くした愛や恋を連想させるものではなくて、何かを意味する物語のヒントのような歌詞。ああ、これから好きになる小沢くんのイメージなんてまったく浮かばなかったけど、これなんじゃないか……と嬉しすぎて胸が苦しくなるほどだったけれど、「流動体について」というかなりアップテンポな曲で肩を揺らす元気な48歳の小沢健二を見て笑ってしまった。
「大人になれば」でみんなからのレスポンスに足をばたばた踏んでみせる可愛らしさとか、結婚した小沢健二が歌う「それはちょっと」の何とも言えない面白さ、「さよならなんて云えないよ」の刹那的な歌詞には楽しいその瞬間がちょっと怖くなり、「強い気持ち 強い愛」ではあの殺人的な高揚メロディにつられて思わず大声で歌ってしまって、その先の最後のあの震えるような歌詞の部分(♪長い階段〜)では感極まってまた胸が苦しくなっていた。
このままもしあの曲を聴いたら号泣してしまうかもしれない。
過剰に身構えていると小沢くんが今からはじめる曲のやり方について「インプローブ」という言葉を使ってとても大事そうに説明をして、今からそれをやります、と歌いはじめたのは「天使たちのシーン」だった。つまり、あの曲。
しばらくじっと聴く。歌詞は同じ、メロディが違う。慣れないけど頑張ってじっと聴く。半分くらいのところで止めてしまう。それでさらりとおしまい。
……でた、全然わかんない!
久しぶりに全然わかんない小沢健二が出た。
演奏が終わるとちょっと恥ずかしそうに満足そうに微笑む小沢くん。
あーもう、いつかわかるようになるまで何度も聴かせてくださいよ、となんだか逆にホッとしてしまった。
おかげで余計なものに感情移入せずに済んだ。
そして終盤には誰だって体を揺らしたくなるようなリズムの「ラブリー」がはじまる。何年ぶりかという感じで口ずさんでみる。蹴っ飛ばすためのブーツ履いて塩を舐め唇をうるおしていた小沢健二が、「LIFE」という2ndアルバムでその後のラブソングの仮面を被った愛についての歌とはまた違うような、胸キュンな「恋」の歌を突如歌いはじめたのか、何故そればかりしつこく歌うのかがよくわからなかった私は、ぼんやりと考える。90年代に皮肉屋たちが避けていた君と僕との甘い「恋」についての歌っていうのは「愛すべき生まれて育ってくサークル」の一番重要な部分じゃないか、と。それがないと世界が回らないような普遍的なこと。その素晴らしさについて垣根を取っ払ってヒットチャートの中で堂々と歌うこと。小沢健二はその時何歳だったのだろうと。目の前でにこにこ歌う人。すごい。超ラブリーだ!(その頃の小沢くんの私生活がラブリーだったか、などは私にはどうでもいい)
最後に観客に一緒に歌って踊って覚えさせた新曲はいちばんシンプルで、その夜のパーティーに招かれた人達のためのような曲だった。新曲は音源化されないのでは、と言われたことを思いだした。
アンコールにて7つの新曲のダイジェスト、そのなかからもう一度歌った曲を演奏し終えると途端に魔法が解かれ、ライブは終了。わかってはいたけれど、やっぱり寂しい。海の近くなのでお帰りの際はサメにご注意下さい、とのアナウンスをしっかり聞き逃さずに会場を出た。
頭の中に残った言葉。フクロウ、シナモン、ベーコンとイチゴジャムのある世界、ちゃんと食べること、眠ること、サメ、流動体、凛々しい音、超越者たち……。その歌をまた聴けますように。
二度と姿を現さなくても、気難しい中年になってもおかしくないような人なのに、ちゃんと音楽活動をして、またみんなの前に出てきて歌ってくれた小沢健二が大好きだ、と強く思った。私でもちゃんと魔法にかかったのだ!
実はライブ前日に、しまいっぱなしの『犬は吠えるがキャラバンは進む』の歌詞カードを何気なく開き、あの名文の最後の部分に書かれている文字を見てびっくりしていたのだ。そこには、いつか近くで僕がライブをやることがあったら、来て一緒に歌ったり、踊ったりしてほしいと思う、とあった。
ああ、だから小沢くんは最初からちゃんと言っていたじゃないか、なぜ気付かず、行こうとしなかったんだろう、とちょっとだけ泣いた。
なんてことを最後に記して、あやふやなライブレポートは終わります。
またすぐに会えるのかな?
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