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2021年間ベスト

2021年は例年よりも少し早い12月の半ばあたりから年間ベストのことを考え始めていた。いつもはなるべく年内ギリギリまでの作品を知りたくて大晦日までのリリースを待って選ぶ。でも2021年に自分がいちばん聴いていたアルバムを振り返ってみたところ、どう考えてもマリカ・ハックマンの『Covers』だった。……2020年発売だ。結局どうしたって取りこぼすのだから微妙なリリース日時にこだわる意味がないような気がしたし、それよりさっさと今年を終わらせたい気分だった。総括したいわけではなく、切り替えたかった。

2021年の後半は精神的になかなかしんどい年だったけれど、思い返せば前半はそんなに悪くなかった気がする。昨年末にこのnote内で「Lisztomania!」というインタビュー記事の連載を始めることを決めて、年始に入ってからは夢中になって取り掛かっていた。参加していただいた皆さんのおかげでなかなか面白い記事ができたと思う。どの回も思い入れは強いけれど、お会いしたことはないのにオンラインショップのセレクトを見て一方的に信頼を寄せていたロデンシア・コレクティヴのマキノさんへのインタビュー記事を完成させたのはものすごく達成感があった。タイミング的に夏の感染拡大やオリンピック関連の騒動に隠れてしまった点だけが心残りなので、未読のかたはぜひ今からでも目を通してみてください。お店の魅力が伝わることを願っています。もちろんほかの回もぜんぶ。


毎年作成している50曲をセレクトしたプレイリストに手をつけ始めたあたりで大晦日のDOMMUNEの件の連絡がきて、そわそわと落ち着かないまま年末を迎えることになった。完璧な準備をしておけば緊張することはない、という現役時代の中村憲剛の言葉を頭の片隅に思い浮かべながら入念におさらいをしておいたのに、当日は時間がなくて用意したことを結局ほとんど話せずじまいだった。そこで自分の不甲斐なさに落ち込んで終わるのがいつものパターンだけど、その後のDJなどの圧巻のパフォーマンスの数々を目の前で体験し続けながら朝を迎えて、PARCOの屋上でそれはもう美しい初日の出を眺めていたら、今からでも何かできることはないか?と未練タラタラともいえる妙なやる気が湧いてきて、正月休みも関係なくPCに向かい補足の記事を書いた。今さら役に立てるかどうかはわからないけれど、自分の中で何かほんの少しの手ごたえすら感じられなければ新しい年をきちんと迎えられない気がした。没頭するあまり、書きかけの年間ベストの記事のことをすっかり忘れていたことに気づいたのはしばらく経ってから。

切り替えたかった重たい気分は年末年始の出来事でリセットされた。冬の冷たい空気を吸って胸の奥がすうっと軽くなった感じ。まるでサウナのあとの水風呂のような。そして改めて年間ベストの記事を開いて書き進めようとしているうちに、今年は(いや去年か)アルバム10枚を選出するのはやめようかな、と思い始めた。せっかくプレイリストは作成しておいたのだから1曲ずつの簡単なコメントだけは添えて。そんな年もあってもいいか、と。そんな気分の年だった、と残しておけば。第一ここで大晦日にギリギリのタイミングで届いたMETAFIVEのアルバムを選ぶのも選ばないのもどっちも違う気がした。コロナ禍に生まれた「環境と心理」が翌年になって別の意味でぐっと沁みた記憶は年間ベストに反映させたくなかった。

1.Song for Nick Drake/Skullcrusher
Secretly Canadianに絶大な信頼を寄せる理由はこういうアーティストを輩出してくれるところ。

2.Do You Wanna/大和那南
時折フレンチポップスに聴こえる瞬間もあるけれど、目つきが鋭いので多分ポストパンクなんだと思う。即完売のレコードはすべて買えず、amistで 泣く泣くCDを購入。

3.From The Back of a Cab/Rostam Batmanglij
クレイロの2ndを聴いてみて、ああやっぱり自分はロスタムのロマンチックな音が好きだったんだと気づいた。

4.日曜日/わがつま
アルバムで選ぶならわがつまの『第1集』が年間ベストかもしれない。宅録の枠からはみ出まくる魅力的なメロディと言葉の連続。アイスクリームの最後のひと口を食べるときの、満たされているのに寂しいような気持ちに似ている。

5.変身/ミツメ
アルバム発売時のミツメのインタビューを読んだらトニー・アレンの話が出てきてなるほどなと思った。ミツメの内に秘めた静かなパッションや世の中への距離感がすごく好き。

6.Waterfall/Death Cab for Cutie
TLCのカヴァー。デスキャブはほかにもストーン・ローゼスの「I Wanna Be Adored」のカヴァーも◎。

7.Sink/DYGL
かなりオルタナに寄った3rdアルバムでいちばんよかった曲。奥行きがあって優しくて深くて、おまけに歌詞もいい。イントロがピクシーズ。

8.Nigel Hitter/Shame
2021年の最初に買ったレコードはシェイムだった。馬鹿みたいに暴れ回るくせに世の中を見据えた目を持っているところがお気に入り。

9.Wet Dream/Wet Leg
曲を聴いてMVを観たら一発でノックアウト。こんなの絶対好きになるよ〜という佇まい。アルバムのリリースが楽しみ。

10.Undecided Voters/Kiwi jr.
たまたま聴いてこれいいなと調べたところオールウェイズのベースのブライアンのバンドだそうで腑に落ちた。

11.Badibaba/Goat Girl
バンド名にガールと名のつくなかでもゴート・ガールは妖しくてイチ押し。サウスロンドンの熱はまだまだ冷めやらぬ。

12.Let's Not Fight!/Porridge Radio & piglet
ブライトンのポリッジ・レディオの2020年発売のアルバムが素晴らしい!と遅れて気づいた2021年の秋。

13.motherless/Hand Habits
この曲好きだ!と調べたらルーク・テンプルのプロデュースだそうで、これも腑に落ちた。

14.P.L.T(feat.Julia Shortreed & ermhoi)/AAAMY Feat.ermhoi,Julia Shortreed
良曲揃いの『ゾッキ』のサントラから。テルミンボーイのお力添えもあってキラッキラ。

15.Theme Vision/Bruno Pernadas
渋谷系から音響派へ向かった音楽リスナーが辿り着くのは多分ここ。つまりポルトガル。ジャケもコーネリアスっぽいし。

16.make it right./Tune-Yards
チック・チック・チックってWarpなんだっけ!?と同じくらい、チューン・ヤーズって4ADなんだっけ!?といつも思ってしまう。

17.Na Bigmanish Spoil Government/Femi Kuti
フェミの息子(メイド)も一緒にアルバムを出していると知って血筋スゲ〜とたまげたりした。

18.Science Fair/Black Country,New Road
あれ、キング・クルールの新曲かな?と思う曲が大体この人たちだったから聴かざるを得なかった。

19.Djurkel/Pino Palladino & Blake Mills
こんなに破壊力のあるジャズは初めて聴いた。ブレイク・ミルズの音のよさはホントなんなんだ。

20.Segment/Morutz von Oswald
Tresor30周年記念ボックスに収録されているモーリッツのダブテクノ。ありがたい。

21.Jour 3/Hildegard
ヘレナ・デランドとオウリによるユニット。Rodentia Collectiveのマキノさんに教えてもらってドンピシャすぎて即買いしたレコード。

22.I Know I Know I Know/Homeshake
再びメロウなホームシェイクが堪能できるアルバムの、特に好きな曲。

23.What if/HIMI
こちらも血筋スゲ〜なネオソウル。エレクトロニック、レゲエ、バラードとテイストの違う4曲入りのEPがどれもよかった。ジャケも面白い。

24.Stay Alive/Mustafa
橋本徹さんの上半期ベストを眺めていたらMITCHさんにこれよかったよと教えてもらった。ジェイムス・ブレイクのプロデュース曲。アコースティックなR&Bにとにかく弱い。

25.Slide Away/Twit One & Reginald Omars Mamode Ⅳ
ドイツのローファイヒップホップの人。アルバム収録の曲名にトーフやアズキなどがあるのも気になる。

26.Formula/小袋成彬
アルバム冒頭の「Work」に打ちのめされつつもこの曲ばかり30回くらいリピートした秋。

27.A Dream With a Baseball Player/Faye Webster 
爽やかなスチールギターの音色と暖かみのあるサックスが同居して、夏でも冬でもイケるフェイ・ウェブスター。mei eharaとのコラボ曲も素敵だった。

28.At Last I Am Free/西内徹
坂本慎太郎のサポートでお馴染みの西内さんによるシックのカヴァー曲。めっちゃシブいしビビります。

29.better/Joy Orbison & Lea Sen
XLだしジャケも格好いいしで聴いてみた。年間ベストのプレイリストのここから次の曲への流れは何気に気に入っているポイント。

30.Jivanmuktih/YokoO
どこの誰だか知らない曲を、毎週更新されるアンダーグラウンド・ダンスのプレイリストから見つけてライブラリに放り込む作業は本当に楽しい

31.Feel Young Again(Ricard Villalobos Remix)/Low Island
リカルドはこれ以外にもジミ・テナーのリミックスもよかったね〜。

32.Flying Fish Song(Rhadoo Remix 1)/Dubfound
DOMMUNEのヴァイナル講座で宇川さんが顕微鏡ミニマルと称していた曲。こんなのを1時間くらい延々と聴いていたい。

33.Saku(feat.Clara La San)/Bicep
シュガースウィートと名乗った以上はベルファスト出身のダンスミュージック狂の若者は無視できない。本格的なUKガラージのリバイバル到来をやっと肌で感じた。

34.Overthinker/D.A.N.
最新アルバムのひときわ躍動感溢れるこの曲を前後のバランスを考慮しながらここに配置した瞬間、心の中でガッツポーズが出た。

35.Busy/Erika de Casier
2ndで4ADへ羽ばたいたエリカの、1stの面影が残る曲。本格的なUKガラージのリバイバル到来をやっと肌で感じた曲、その2。

36.The Holding Hand/Iceage
プレイリストのアクセントをつけるために入れがちなアイスエイジをコペンハーゲン繋がりでエリカの次に入れてみたり。個性は武器。

37.Everydaywehustlin/Emeka Ogboh
ele-kingのレビューで知ったナイジェリア出身のアーティスト。フィールドレコーディングの音声とディープなリズムが絡む不穏なサウンド。

38.Blue Comanche/Westerman
Flag Radioで知ったブリオン。彼がプロデュースしたウェスターマンのアルバムが2020年にリリースされているのを気づいて慌てて聴いた。

39.Underwater/Mini Trees
ミニ・トゥリーズがほかのSSWとひと味違うのはリズムが素晴らしいところ。元々ドラマーなんだとか。味のある低い声もいい。

40.Hold U/indigo De Souza
2018年発売の1stを聴いていた頃はよくわからずに勝手にバンドだと思いこんでた!舐められまいという気概を感じるようなそうでもないような謎ジャケが面白い。

41.Leave Me On the Floor/Liss
新曲が出るたびにチェックして毎年プレイリストに入れているのに、一体この人たちはいつになったらアルバムが出るのか。

42.Love in Space/Fulltone
誰にも教わらずに自分で探しているうちに好みの曲に辿り着いたときの喜びといったら。タイトル通りのスペイシーなハウス。

43.羽毛能指(Feather Signifier)/Howie Lee
今までのゴリゴリなエレクトロニックサウンドも残しつつ、中国伝統楽器を取り入れた壮大で摩訶不思議なワールドミュージックへと変化したようなアルバムがすーばらしかった。

44.4:38am(feat.Barrie)/Ford.
ソロプロジェクトに移行したバリーの2022年リリース予定のアルバムの先行曲を聴く限り、どうやらバンドサウンド寄りではなさそうだという傾向がこのコラボからもうかがえる。それはそれで楽しみ。

45.Can You Hear Nature Sing?(feat.Zoe Bestel)/Dot Allison
元ワン・ダヴのボーカリストの久々の新譜。アコギ一本でもひときわ際立つ相変わらずの低体温な歌声にぶるぶる震えた。

46.フロート/シャンモニカ
プロントの店内で流れていたのが気になって調べた曲。久々に日本人でいいバンドを見つけた。

47.Back of My Hand/Bachelor,Jay Som&Palehound
バチェラーはジェイ・ソムとペールハウンドのプロジェクト。1曲目からグッドメロディと歪んだギターでもてなしてくれるし、アルバムにはビッグ・シーフのメンバーも参加しているしで、アメリカのインディーもまだまだ安泰。

48.Here's the Thing/ Courtney Barnett
前2枚を更に上回る3rdアルバムのクオリティ。よりシンプルになり素材のよさが突出していて全曲素晴らしかった。

49.La Perla/Sofia Kourtesis
ペルー出身でドイツで活動するDJのソフィア・クルテシスの曲。エキゾチックなボーカルに心地よいリズム、胸に秘めた想いをゆっくり開放してくれるようなダンストラックです。と、4月のラジオ選曲のコメントをそのまま載せとく。

50.別菅我/Everfor
台湾のバンドの2ndアルバムの最後の曲。音が厚みを増して格段に良くなって化けた感じ。またいつか来日してほしい。


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緊急事態宣言が解除されて感染状況が落ち着いた頃にクラブには何度か行ったけれど、ライブはミツメを2回観て、あとはフジロックだけ。悔しくて悔しくてしかたがなかった夏に、口をつぐんだまま人との距離を取り、SNSから離れた山奥の最高のサウンドシステムで観た数々のステージを忘れない。


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