逆転の向う側
“逆転の内藤哲也”。
それは、起死回生への確信と覚悟の言葉。
まさに、内藤哲也のレスラー人生を表わしている。
新日本プロレスのV字回復の立役者、“ACE” 棚橋弘至を継ぐ、次代のエース候補として、有望視されていた内藤。
しかし、まさかの、レインメーカーショック。
エースの座を、オカダ・カズチカに奪われた。
“30歳までに、IWGPヘビー級チャンピオンになる!”。
その目標までも、オカダに阻まれた。
2014年8月、G1クライマックス初制覇。
「新日本の主役は、俺だ!」
そう、内藤が叫んでも、ファンは認めてくれなかった。
G1覇者に約束された、東京ドームのメインベントまでも、ファン投票で、棚橋弘至と中邑真輔に奪われた。
どんなに内藤が、華麗に戦っても、会場はブーイングの嵐。
「どうしてなんだ!教えてくれ!」
2015年5月、失意の中で内藤は、メキシコへ行く。
原点の地・メキシコで、かつての盟友が、内藤を待っていた。
LOS INGOBERNABLES(彼らは制御不能)。
ラ・ソンブラ(現・アンドラ―デ)と、ルーシュが、結成したヒール・ユニット。
観客の反応など、全く気にしない。
自由奔放で、傍若無人なファイトスタイル。
内藤は、ソンブラの誘いで、ユニットに加入し、思う存分、暴れまくった。
心から、プロレスを楽しんだ。
ファンの反応を気にするあまり、本来の自分を見失っていた。
武藤敬司のプロレスを観て、プロレスに熱中した少年時代。
あの時の、内藤少年の心を、LOS INGOBERNABLES が呼び覚ましてくれた。
内藤は、新日本プロレスで、LOS INGOBERNABLES de JAPON を始動。
”制御不能なカリスマ” と呼ばれ、パレハの、EVIL、BUSHIと、新日マットを席捲し始める。
2016年、春のニュージャパン・カップを、内藤は初めて制覇する。
そして迎えた、4月10日の両国国技館。
IWGPヘビー級チャンピオン、オカダ・カズチカの前に立った。
入場から “大内藤コール” で迎えられた。
試合中に、パレハが、どんなに介入しようと、観衆は大声援。
1年前までの “大ブーイング” が、まるで嘘のようだ。
ファンから絶大な支持を得た内藤哲也が、そこにいた。
新たなパレハのSANADAも登場し、オカダに新技・デスティーノで勝利。IWGPのベルトを、始めて手にした。
「これから、ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンが、新日本プロレスを応援してくださるファンの皆様に、新たな景色をお見せしたいと思います」
大観衆と共に、“デ・ハポン!” の大合唱。
内藤は、“オカダ・カズチカ” という、大きな地盤を、ひっくり返えした。
"こんな光景、見たことない!"
"内藤に、こんな力があったのか?"
ファンが、IWGP初戴冠を、“大内藤コール” で祝福。
だが、内藤は、やっと手にしたIWGPのベルトを、天高く放り投げた。
まさに、制御不能。
内藤の存在が、IWGPをも凌駕した。
内藤は、2017年の夏に、2度目のG1制覇を成し遂げる。
そして、翌年の “イッテンヨン” の東京ドーム。
念願だった、メインイベントのリングに立つ。
さらに、2020年の東京ドーム。
IWGP王者のオカダ・カズチカ。
インターコンチネンタル王者のジェイ・ホワイト。
G1覇者の飯伏幸太。
そして、内藤哲也の4名で、2本のベルトを賭けて争うことになった。
内藤には、ベルトも挑戦権利書もない。
だが、1月4日に、インターコンチネンタル王座を奪取。
翌5日には、オカダ・カズチカとの、ダブルタイトルマッチを制し、2冠王となる。
内藤は、史上初の偉業を成し遂げ、“逆転の内藤哲也” を達成した。
しかし、KENTAの乱入で、東京ドームでの “デ・ハポン!” の大合唱を阻まれた。
さらに、コロナ感染が世界中を襲い、プロレス界も窮地に追い込まれた。
今年1月の横浜アリーナ。
コロナ禍で失われていた、プロレス会場内の歓声が、徐々に戻ってきた。
その中で、武藤敬司が放った一言。
「お前に決めた!」
内藤は、武藤の引退試合の相手に指名された。
「熱い、熱い試合をやろうぜ!」
金剛の、拳王と戦う内藤を、実況席から見ていた武藤。
天才の感性に響いたのか?
武藤の、突然の指名が、内藤の “運命“ を、大きく動かした。
2月、プロレスリング・ノアのエディオンアリーナ大阪大会。
メインイベントを直前に、突如、“STARDUST” が流れる。
内藤哲也が、試合と同じ、真っ白なコスチュームで登場した。
先に来場していた、武藤敬司の、顔の表情が一瞬にして変わる。
「ブエナス・ノーチェス、オオサカ―!」
ノアのリングでも、圧倒的な存在感を示す内藤。
「武藤選手に完勝し、悔しい思いをして、リングを降りていただく。それが、俺をプロレスに熱中させてくれた、武藤敬司選手に対しての、最高の恩返し思ってるんで」
内藤の、言葉の発信力の凄さ。
内藤が語る “武藤LOVE” は、武藤とノアファンの心に、深く響いた。
今年の “イッテンヨン” 。
内藤は、東京ドームの、メインイベントのリングに立つことが、出来なかった。
しかし、2月21日、東京ドームのリングで行われる、武藤敬司の引退試合。
そこは、かつて内藤が目標とした、棚橋弘至さえも立つことが出来なかった舞台。
元日に、グレート・ムタと戦った、中邑真輔も叶わなかった夢。
内藤の夢を悉く阻んできた、オカダ・カズチカは、同じ日のセミファイナル。
その、メインイベントのリングに、内藤は立った。
これこそ、“逆転の内藤哲也” である。
試合は、内藤が、逆転の代名詞、“デスティーノ” で、武藤から勝利。
内藤の目には、光るものがあった。
「俺の目標は、飽くまでも、2024年の東京ドームの、メインイベントに立つこと」
武藤敬司を介錯した、その “逆転の向う側” で、内藤哲也は、何をするのか?
巷では、”内藤、新日本を退団しフリーに⁉” との噂も流れた。
ユニットの再編成はあるのか?
アンドラ―デ、ルーシュと合流するのか?
オカダとの夢のタッグ結成⁉
想像するだけで、ワクワクする。
でも、内藤哲也は、きっと、こう言うだろう。
「その答えは、もちろん! トランキーロ、焦んなよ!」
ってね。
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