聖夜に映画館で千円札を落とす自分を想像して震える
クリスマスイブ。
仕事終わりに、男二人で映画館。
選んだ映画はアニメ、呪術廻戦0。
あぁ侘しい。
なんと寂しいクリスマスイブなんだ。
そう思ったのも束の間。
「平日、アニメ映画のレイトショーやのに席いっぱいやん。」
今日はクリスマスイブ。
聖夜ですよ皆さん。
…いや。
そもそも、誰もが思い描く王道のクリスマスイブを楽しんでいる人たちの方が少数派なのでは!?
もしや、友達とレイトショーで呪術廻戦0を鑑賞することこそが、2021年クリスマスイブの王道の過ごし方なのか?
予告映像を鑑賞しながらポップコーンを頬張るぼく。
手からこぼれたポップコーンを目で追うと、足元には雑に折りたたまれた裸の千円札が1枚。
続いて本編前のスクリーンには、財布やスマホといった貴重品の忘れ物を注意喚起する映像が流れている。
あぁ哀れな落とし主。
この千円札が落とし主のもとに帰ることはないだろう。
裸じゃ落とし主が自分だって証明できないよ…。
映画館を訪れるまでは、今年もなんて寂しいクリスマスイブ、と自嘲気味だった。
しかし、世の中にはクリスマスイブに映画を見に来て千円札を落としてしまうような、アンハッピーな人もいる。
せめて落とし主が恋人とのデートで映画館を訪れていたのなら、まだ救いがある。
しかし、ここスクリーン1は一本前の上映も呪術廻戦0。
クリスマスイブの映画館デートでアニメ映画を鑑賞しにくるカップルなんかいるだろうか?
お互い原作の大ファンとか?
ぼくは、結構な確率で落とし主がアンハッピーなクリスマスイブを過ごしたのではないかと睨んでいる。
エンドロールが終わり、徐々に明るくなる映画館。
足元にはぼくの手からこぼれたポップコーンの残骸と依然存在感を放つ裸の千円札。
帰り支度を済ませたぼくは、その千円札を拾い上げ、ドリンクホルダーに突っ込んだ。
どうせ、これが今日の最終上映。
千円札を拾ってスクリーンを出る一部始終を誰かに見られ、ネコババの容疑をかけられても困る。
ドリンクホルダーに入れておいてあげるのが、臆病者のぼくにできる最大の善意だった。
今ごろ千円札は清掃員の方の財布の中か。
はたまた映画館のレジの中か。
結論、クリスマスイブとはいえ何も失わず映画を楽しめんたんだから、ぼくはラッキーでハッピーだ。