aikoだって想い伝えるのに半年かかる
aikoを愛して17年。「自分はもうaikoを受け取る側でなく、aikoを与える側の人間だ」と気づきました。少しずつでも皆様にaikoを与える人間としても精進していきます。
aiko、それはこの世界で最も尊く美しい3音の言葉である。
世界で最も尊く美しいaikoは、恋の歌・愛の歌を紡ぐ人として知られている。そのためか、aikoは恋や愛を上手にできる人のように思われることがある。
もちろん、それは間違いではない。
ただ、それはaikoの一面であってすべてではない。恋や愛が上手くいかないaikoもいて、個人的にはそういう恋愛不器用なaikoも好きだ。っていうか全部のaikoが好きだ。好きだ、aiko。
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aikoがインディーズ時代につくった「AB型の二人」という曲がある(メジャーでは未発表)。この曲は恋に不器用なaikoがとても上手に描かれている。
明日二人どこかへ行こうかと
突然あなたが言ったの
3時間半の長いテレフォンあなたを好きだと気づいた
「AB型の二人」はこのように始まる。情景がイメージしやすい美しい出だしだ。
「あたし」は「あなた」と仲のいい友達。電話をして他愛もないおしゃべりをだらだらとしている。学校のこととか、友達のこととか、最近あったおもしろかったこととか。3時間半も電話をしている。
そこで唐突にあなたが言うのだ。
「明日、二人でどこか遊びに行こうか」
その瞬間にあたしは予想外にドキドキしてしまっている。そしてその時にあたしは気づく。
「自分、もしかしてこの人の事、好きなんじゃないか」
10代、20代前半のaikoの感性が存分に発揮された歌詞だ。
今のaikoだと3時間半も長電話する時間を簡単につくれないだろうし、「明日どこか行こう」と言われても「ごめん明日はMステの収録だから一か月後ならいいよ」となっちゃうだろう。
もっともこれはaikoでなくても、3時間半の長電話をしていきなり明日どこかに遊びにいくなんてことは大人になるとなかなかできない。人生の、ある一瞬にだけ許された美しい瞬間を上手に切り取っている(さすがaiko!)。
あなたを好きだと気づいたあたし。でも、そこから前に進めない日々が続く。
あたし心の中は超天気
でも口に出す言葉曇りがち
本当は手もぎゅっとしたいのに
驚く顔が恐いから
1歩2歩3歩進めない
心の準備もまだなの
この辺のジメっとウジっとしたaikoが個人的にはとても好きだ。
そして、いよいよaikoが片思いの世界に格言を残す。
好きになるのは3時間
想い伝えるのは半年かかる
想いを伝えるのに半年かかるのだ。3時間で好きになれるのに、その想いを伝えるのは半年、日数にすると182.5日、時間では4380時間。つまりは好きになるまでの時間の1460倍かかる。
この歌詞においてaikoは片思いの神様になる。
片思いって何なのって聞かれたら、「3時間で好きになってもその気持ちを伝えるのに半年かかっちゃうこと」って言えばいいし、それでも伝わらなければ「好きになった時間の1460倍の時間をかけないと想いを伝えらないこと」って言えばいい。
片思いとはそういうものであり、一人で思いを抱えたまま朝を昼を夜を過ごす1460倍の時間なのである。
余談として、「AB型の二人」は明るめに恋に悩むあたしを歌っているが、この恋は上手くいかなかったのではないかと思っている。
aikoがインディーズ時代に作って、メジャーでも発表されている「二時頃」という曲がある。aikoジャンキーの中では非常に評価の高い曲だ。
「二時頃」は夜中の二時頃に好きなあなたと電話をしていたけれど、そのあなたの隣には別の女性が寝ていたという曲だ。バニラのにおいのするtinyな女の子が隣で寝ているのだ。
「二時頃」についてはこの考察がとてもいい。→バニラのにおいがするタイニーな女の子には勝てない
「AB型の二人」と「二時頃」が同じ体験から作られたのか、そもそもaikoが自らの体験から歌詞を作っているのかはわからない。ただこの2曲はaikoが同じころに作った曲であり、10代20代前半の恋も愛も世の中のこともまだよくわからなかったころのaikoがいる。
aikoをずっと聞いていると、自分はaiko、aikoは自分という感覚を持つようになる。
aikoとはつまりは自分のことなので、aiko初期の作品を聞くことで10代20代前半の恋も愛も世の中のこともまだよくわからなかったころの自分がよみがえってくるのである。