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完全片付けマニュアル~片付けは生存に通ず~
本稿は当初、私が所属しているリサイクルショップよろず屋いちばんというお店の提案書として書き進めました。
よろず屋いちばんは組合形式で複数の自営業者が所属して維持しているお店です。さまざまな人がいることもあり、気を抜くとすぐに店内もバックヤードもカオスが訪れてしまいます。発狂した私はカオスを改善するために本稿の作成に取り掛かりました。
しかし、書いている内に「もっと多くの人に読んでほしい」という欲が出てきました。というのも、仕事でも生活でも一定の利のある内容を提供できているかもしれないという思いが芽生えたからです。
私の実践が正しい点、間違っている点、より改善できる点など様々あるかと思います。私自身、書いた内容がすべて正しく最善だとはとても思っていまぜん。
本稿が片付けについて意見交換のきっかけとなりましたらとても嬉しいです。
第一章 そもそも片付けとは何か
片付けについて耳を傾けてほしい
片付けは生活でも仕事でも頻繁に使われる言葉です。しかし、よくよく考えると片付けとは一体何をどうすればよいのか、どういった変化を表すのか、非常に曖昧な言葉でもあります。
人によっては「とても片付いている」と思う状態でも、他の人が見れば「雑然としている」と思うことはしばしばです。そういった曖昧性から片付けによる衝突を目にします。
では、片付けとは何なのか。私は以下2点の定義が適切だと考えています。
①瞬時に把握・アクセスできる情報量を増やすこと
②情報量の維持・増加のための継続性を保つこと
これは言葉だけを出されても理解するのは難しいと思います。以下の写真の具体例を見ると「なるほど、そういうことか!」と理解して頂けると思います。
まずは①の説明です。こちらは我が家の調味料スペースのビフォーアフターをご紹介します。
まずはビフォーがこちらです。
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この状態をぱっと見て把握できる情報は「たくさんの調味料」ということになります。何か具体的な調味料を使いたい場合は探すという行為が必要となる可能性が高いです。
そして、こちらがアフターです。
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棚を一段作ったことで調味料の一覧性が向上しました。ビフォーとアフターではアフターの方が使いたい調味料をすぐに見つけられるのではないでしょうか。
これが片付けの定義①の「瞬時に把握・アクセスできる情報を増やすこと」を以前よりも達成したことになります。
次に②情報量の維持・増加のための継続性を保つことについて説明します。
こちらについてはまずはよろず屋いちばんの倉庫をご覧ください。
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見てわかるように洗濯機が入り口に置かれています。この状態は①瞬時に把握・アクセスできる情報量を増やすに関してはこれ以上なく、洗濯機(ドン!!)という感じで洗濯機があるということを瞬時に把握でき、洗濯機へのアクセスも1秒でできます。
しかし、ここでの問題は②なのです。
片付けの定義②は「情報量の維持・増加のための継続性を保つこと」です。
こちらは入り口を潰してしまっているので奥に入ることもままならず以降は物を倉庫に入れることも困難となり継続性が失われています。それによく見ると後ろに段ボールも積まれていて中に入るだけでも大変そうです。
つまり写真の状態は①は達成しているけれど②は未達成ということになり、私の判断では片付いている状態とは言えません。
このように私が考える片付けは
①瞬時に把握・アクセスできる情報量を増やすこと
②情報量の維持・増加のための継続性を保つこと
の2点を達成することにあります。
片付けは生存に通ず
ところで、片付けというと即座に拒否反応を示してしまうような片付け嫌い、片付けアレルギーの人もいます。
もちろん、全く片付けをしなくても食事や睡眠という生きるために必要な活動を続けていくことは可能です。だから、「片付けしなくてもいいじゃん」と思ってしまう人の気持ちもわかります。
しかし、私はある程度までは自分自身で片付けができるよう技能・知識を習得しておくことは生きていく上で重要だと考えるようになりました。
私はリサイクル・リユース業という仕事柄もあり、さまざまなお家の中に入らせて頂く経験が他の方よりも多いと思います。
あくまで傾向としてですが、特に若いうちはむしろ家の中が雑然としている人の方がエネルギッシュに動き回り、社交関係が豊かな人が多いようにも思えます。
一方、家の中が整理されている人は内的な趣味、例えば植物栽培や料理やDIYなどを楽しんでいる人が多いように思います。
このどちらも素晴らしい事だと思います。ただ、一点気をつけるべきこととして、人間は誰しもが気力・体力は全盛期を過ぎると衰えていくという事実があります。
雑然とした空間は若いころには持ち前のエネルギーで、その微妙なバランスを維持できます。しかしその微妙で絶妙なバランスが段々と決壊してしまうかもしれません。
実際に決壊したカオス空間で「本当はこんな環境で暮らしたくはないのだけど…」と思ってしまう人は決して少なくないというのが私の実務経験から思うことです。
片付けの原理・原則を知っておくことで、「未来の後悔」や「回復困難なカオスの到来」を避けることも可能です。
今すぐに片付けが必要ではないという人もいると思います。しかし、いつかの将来のために「片付け」を知ることは決して損ではありません。
片付けが苦手だという人の多くは「自分は片付けができない」と頭からその努力を放り投げてしまいます。しかし、私は原則を抑えてルールを作ることによって誰でもある程度の片付けができると思っています。
次章から少しずつ片付けについての具体的な提案をまとめていきます。
第二章 『片付け力』習得への道
片付けができない人の共通点
前章でも触れたように「片付け」というのは非常に定義が曖昧な言葉です。しかし、私がつぶさに人を観察した結果、「片付けができない」と評される人にはひとつの共通点があることを発見しました。
その共通点とは
何も考えずに物を取り、何も考えずに物を置く
ということです。
具体的に説明をします。
片付けができない人に対して「手に取っている物を元の場所に戻して」とお願いしたとします。この際に元の場所に戻す正確性が、いわゆる「片付けができる」と評される人よりもかなり精度が落ちます。
つまり、片付けをできない人の多くが何か物を手に取る際に「その場所に置かれていた意図・メッセージ」を意識していないということです。
そしてこれは物を置く際も同様のことが起こります。意図もメッセージも込めずに物を置いてしまうのです。空間が乱れて、雑然としていく理由のひとつがこれです。
誰もが「片付け」を習得できる!
この「片付けができない」を解決することは難しいことではないというのが私の考えです。
ここまで何度も触れたように『片付け力』とは
①瞬時に把握・アクセスできる情報量を増やすこと
②情報量の維持・増加のための継続性を保つこと
の二点に集約されます。以降はこの2点を「片付け大原則2点」と呼びます。そのくらいにとびっきり重要な本稿の肝であり、もはや本稿の全てと言っても過言ではない原則になります。
片付けがされている空間は(人により哲学の違いがあるにせよ)「片付け大原則2点」が意識した形で設計されています。その空間のルールに則ることができれば『何も考えずに物を取り、何も考えずに物を置く』ということもなくなります。
そしてこの原則を抑えれば自分自身が空間の創造主にもなれます。
繰り返しとなりますが、「片付け大原則2点」を理解することはそこまで難しいことではありません。一度覚えてしまえば、麻雀の役牌、サッカーのオフサイド、マリオカートのロケットスタートのタイミングと同じように体に染みつき忘れることもありません。
本稿は後半において片付けのテクニックを紹介します。テクニックはテクニックとして重要ですが、より重要なのはその全てが「片付け大原則2点」を成り立たせるために存在しているという大前提を意識です。
というのも、私も本稿をつくるにあたり「自分の感覚・実践はどの程度の普遍性があるのか」を知りたいと思い、一定数の片付け本やレイアウト本を読んでみました。もちろんそれらの本にはさまざまな片付けやレイアウトのテクニックが記されていました。
そして、それらのテクニックは要は「片付け大原則2点」に行きつくことを改めて確認しました。逆に言うと「片付け大原則2点」を根底に置かなければ、どんなにテクニックを習得したとしても上辺だけの理解に留まり、そのテクニックを活かすことはできないでしょう。
テクニックを習得するためにも、どのような状態が「片付け大原則2点」を乱してしまっているのかを具体例をあげつつ紹介します。やはり百聞は一見に如かずです。
第三章 何も考えずに物を置くことをやめる
物を置ける場所は3種類しかない。
先ほども記した通り、『片付け力』の習得に必要なことは、何も考えずに物を置くことをやめるがスタートです。
何も考えずに物を置くと言っても、物を置ける場所の種類は決して多くはありません。ずばり、3種類に大別可能です。
そしてその3種類とは
①空いている床
②何かの物の上
③何かの物の前
の3点です。この3点のいずれかに何も考えずに物を置くことで、「片付け大原則2点」が崩れていくのです。
この3か所にはそれぞれの何も考えずに物を置くことのデメリットがあります。それぞれを紹介していきます。
物を置く場所①床の上
私は商売柄、さまざまなお家にお伺いさせて頂く機会が多いです。そして、「家が片付いていなくてすみません」と話される方の多くが、この床置きパターンが多いです。無秩序に床に置かれた物が多いのです。
床に物を置くことの特有のデメリットとして、「置かれた物自体へのアクセスに負荷がかかる」ということが上げられます。
個人のお店で床にさまざまな物が入った段ボールを置いて、「あとは好きに欲しいものを探してね」というスタイルを時おり見ます。
一般的に人はかがんだ状態でずっといると負荷がかかります。これがレコードなどのマニアの収集癖をくすぐるタイプの商品ならこれでもいいと思います。そうではなく、日用雑貨などの場合はこれは悪手になります。
さてお店の写真で紹介しましょう。
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こちらはお店の床に置かれた1ドア冷蔵庫です。
1ドア冷蔵庫がここに置かれたことで
・後ろの商品を取れなくなる。
・通路が通りにくくなる
という二点の弊害が生まれています。「片付け大原則2点」が崩れていることがわかります。
また先ほど紹介した「置かれた物自体へのアクセスに負荷がかかる」という点もわかりやすいです。
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1ドア冷蔵庫を正面から見るとこのようになります。もしも開けて中の状態を見ようとしたらかなりかがんだ状態にならなければいけません。床置きであることでアクセスすることに負荷が伴う状態となっているのです。この場合は多少高さを作った場所に置けば楽々見ることができるようになります。
物を置く場所②何かの物の上
こちらも片付けが苦手という人でよく見られるケースです。物の上に物を置く、物on物で室内の至る所にタワーができてしまいます。
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なお私はここで物on物のタワーを作ることがダメだと言いたいのではありません。何も考えずに作られた物on物のタワーはダメであると言いたいのです。口酸っぱく言いますが、片付けの原則である「片付け大原則2点」を満たしていれば、床に置いても、物の上に置いても、どこに置いてもよいのです。
ではどういう状態がよいのかということで先ほどの1ドア冷蔵庫を用いて説明します。
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最下段は乾燥機、その上に先ほどの1ドア冷蔵庫を置いています。その上にもディズニーのおもちゃを置いちゃっています。乾燥機の上に二つの物が置かれていますが、計3つの物のいずれの「片付け大原則2点」が乱されていないことがわかります。
欲を言うと最下段の乾燥機が少し気になるのですが、とは言え「物の上に物を置いても良い状態がある」ということが視覚的に理解できるのではないでしょうか。
物を置く場所③何かの物の前
最後は「何も考えずに何かの物の前に置く」です。こちらでは「片付け大原則2点」の②情報量の維持・増加のための継続性を保つことを侵してしまうケースが多いです。
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このように、商品の前に商品を置くことで奥の商品が取れなくなっています。
これまでに紹介した
①床の上
②何かの物の上
は「片付け大原則2点」を守りつつ効果的に物を置くことが可能です。この点、③何かの物の前は効果的に物を置くということが他よりも難しいように思います。
言うならば発展形とも言える難しさがあるように思います。そのため、もしも難しいようであれば「物の前には物を置かない」というルールを作ってしまうという形でも最初のうちはよいのかもしれません。
第四章 意図を込めて物を置く
『片付け力』の実践
ここまでで
①空いている床
②何かの物の上
③何かの物の前
の3点で「片付け大原則2点」がどのように乱れているかを紹介しました。逆に言うと、「片付け大原則2点」を乱さない置き方をすれば「片付け力」はすでに習得したも当然ということです。
そうは言ってもどうすればよいかわからないという人もいると思います。
そういった方のためにもここからは片付けの実践のヒントとしてテクニックを何点か紹介します。そう、ここまできてやっとテクニックなのです。
そして、様々なテクニックがある中で、私は「視点」「身体」「情報整理」という3つを意識することがまずは重要であると考えました。
これから「視点」「身体」「情報整理」に強く関連する3つのテクニックを紹介します。その上で繰り返しとなりますが、テクニックは「片付け大原則2点」を達成するための、もしくは精度を高めるためのトッピング程度のものです。
まずは大前提としての「片付け大原則2点」をしっかりと心に刻み込むことです。基礎基本、一番地一丁目、全ての土台は「片付け大原則2点」であることを踏まえてテクニックを見ていきましょう。
ゴールデンゾーン(=視点)の理解
こちらは数多くのレイアウト本やサイトに記されているテクニックです。テクニックというかもはや業界においては常識と言えるものかもしれません。
「レイアウト ゴールデンゾーン」とか「片付け ゴールデンゾーン」と検索すればとにかくたくさんのサイトが出てきます。もはや、ここで私が新しく何かを書くことはないので引用サイトをひとつ貼っておきます。
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こちらのサイトは最初にイラストがあるのでそれを見るだけでも何となくわかります。
非常に有名なゴールデーンゾーンですが、ゴールデーンゾーンというテクニックを徹底すると
①床の上
②何かの物の上
という場所に商品をどのように置けばいいのか、あるいはどのように置くことを避けるべきなのかを理解することができます。例えば床に商品の入った段ボールを置くということが最適でないということもすぐにわかります。
通路幅・導線(=身体)の理解
通路幅・導線についてもゴールデーンゾーン同様に数多くの本やサイトで触れられています。
こちらも非常にわかりやすいサイトがありましたので紹介します。
「インテリアの人間工学」という難しそうなサイト名ですが、それぞれの状況別にイラスト付きで示されています。また、我々の場合はリサイクルショップなので収納家具に商品を置くということもあります。
通路幅を狭める、もしくは通路自体をなくしてしまう、導線をつぶすということを弊店は結構やりがちです。しかし、人間には快適に動作するのに必要なスペースがあり、そのスペースを潰してまで物を置くことは避けなければなりません。
このことを理解すれば
①床の上
③何かの物の前
という二点に意図を込めて物を置けるようになるのではないでしょうか。倉庫の入口、通路中央に物を置くと後々の作業ができなくなるということも通路幅・導線の把握によってわかります。
ゾーニング(=情報整理)の理解
視点・身体ともうひとつ重要となるのが情報整理です。
ここまで、あまり専門性の高い用語は使用せずに本稿を進めることを意識してきました。私自身が専門家に程遠いことと、イメージのしにくい専門用語を使用しても理解を深めることにはつながならないという考えからです。
しかし、情報整理に関しては適切な用語を見つけられずゾーニングという言葉をここでは用いさせて頂きます。
店舗や空間を作る上でゾーニングという考えがあります。
色々探しましたがこちらのサイトが一番説明としてはわかりやすいと思います。
https://wa3.i-3-i.info/word19107.html
つまり、物(商品)は多くの場合において種類・用途ごとにある程度エリアを区分けして置かれているということです。
例えば家電は家電、陶器は陶器、備品は備品という風に大きなエリア分けがあります(さらにその中で細かなエリア分けもありますがそれはひとまず置きます)。
こちらは
①床の上
②何かの物の上
③何かの物の前
3点に通ずる考え方になります。
本当に初歩の初歩ですが、何も考えないで物を置いてしまうとこのゾーンのルールも守ることもできなくなってしまいます。
急いでいて考えられないとき、もしくはここまで進めた本稿の内容を飲み込めないときは、まずは「物には大きなエリア分けがある」ということを念頭に置くだけでも大きな変化があるはずです。
終章 片付けは生存に通ず
そして社会実験は続いていく
ここまでの長い文章を読んでくださった方、本当にありがとうございます。本稿はこの章で終わりとなります。
片付けが得意な人にとっては「なんだそんなことか」というような取るに足らない内容であると思います。
しかし、私がいよいよ約3年にも及ぶ協同労働の実践の中で『共に働く』ということは一人一人の「なんだそんなことか」を懇切丁寧に話し、記し、説得し、議論していなければ成長していくことはできないと痛感しました。
我々の協同労働が今後どうなってしまうのか、もはや予想もできない状況ですが、ひとつの実験報告としてどなたかの役に立つようでしたらとても嬉しいです。
また、『共に働く』というだけでなく『共に生活する』という場合においてもある程度は片付けの意識のすり合わせやたたき台として機能するかもしれません。これもまた私にとっては嬉しいことです。
最後となりますが、遺品整理・空き家片付け等々の物のお悩みがありましたら、弊社グリーンワークスもしくは弊組合にまでぜひぜひご相談ください。