12/6 帰る場所
「ただいま」
我ながら酷く機嫌の悪い声で呟いた。手には無惨な姿になったお気に入りの傘。その傘片手に私も無惨にびしょ濡れだった。
背後の玄関のドア越しにまだ嵐のような雨の音が響いている。
「おかえりー。って、あらあら。やられちゃったわね」
私の声は届いていなかっただろう。ドアの開く音で走りよってきたゆいさんは準備良くタオルを手にしていた。傘の形ではなくなってしまった傘をどうにか収めようとしている私の濡れた髪をゆいさんが拭いてくれている。
「この傘お気に入りだったのに」
ご機嫌ナナメな私をあやすようにゆいさんが私の頭をふかふかのタオルで包んだ。
「次の休みに傘買いに行きましょう」
そうしてにっこりと優しく笑む。そこでやっと、私は安全な我が家に帰ってきたのだとほっと息を吐く。我が家…違う。ゆいさんの居るこの場所が、私の帰る場所なのだ。
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