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2021年12月ワードパレット【はるかとゆいさん】

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はるかとゆいさんの、12月。
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#百合小説

12/24 ありふれた奇跡の話

12/24 ありふれた奇跡の話

 クリスマスイブは今年もゆいさんとふたり、我が家でちょっとしたご馳走を食べて過ごすことになっていた。こうして我が家、と思える程に、最初は居候だったこの家が居場所になっていることに気付く。
 幸せなことだと思う。
 好きな人と一緒に居られる。それ以前に、好きな人が自分のことを好きで居てくれる。感謝してもしきれない。ゆいさんが居てくれなかったら、今の私はなかった。あの日ゆいさんが迎えに来てくれて、本当

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12/23 頬に灯る

12/23 頬に灯る

 ゆいさんとの甘い時間は、嫌いじゃない。
 いつもリードしてくれるゆいさんに、慣れない仕草で唇を寄せる。
「可愛い」
 ふふ、と笑んで言ったゆいさんの声がいつもと違ってどこまでも甘美だった。
 私は少し悔しくなって、頬をほんのり染めながら何度も唇を寄せた。
 それからゆいさんの滑らかな脇腹を手のひらでスーッと撫でる。柔らかくて、いい匂いがする。同じボディーシャンプーを使っているのに、いつもゆいさん

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12/22 君と踏み外したい

12/22 君と踏み外したい

 たいして飲めないお酒を飲んで帰宅した私はお水を喉に流し込むとそのまま服を脱いでベッドへと潜り込んだ。先に布団に入っていたゆいさんが「大丈夫?」と心配そうに声をかけて背中をさすってくれた。
 私は泥のようにシーツに沈み込んでいく。その最中、ゆいさんを引き寄せながら口にした。
「ゆいさん、宇宙一すき。」
 ゆいさんが驚いた様子が空気を伝わってきた。普段あまり口にしない言葉だった。私はそのままゆいさん

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12/21 何度でもときめいて

12/21 何度でもときめいて

 基本的に私とゆいさんはお布団が好きだ。夜は早めに一緒に布団に入って、少し会話を交わして、眠りに就く。
「私ね、はるかの好きなところいくつでも言えると思うの。」
 唐突だった。いつものように布団に入るとゆいさんがそんなことを言い出した。
「好きだなぁって思うところを思い出して、好きを噛み締めるの。」
 あまりに唐突すぎて私は返す言葉が見つからなかった。恥ずかしさもあったので黙って聞いていた。ゆいさ

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12/20 柔らかな髪

12/20 柔らかな髪

 お風呂上がりのゆいさんの長い髪をドライヤーで丁寧に乾かすのが最近の習慣だった。ゆいさんがとても喜んでくれるのがかわいくて、私はドライヤーを片手にゆいさんがお風呂から上がるのを待つようになった。
「ゆいさんの髪、ふわふわ」
「癖毛だから広がるのよ」
 緩やかなウェーブを描く髪を丁寧に指で梳く。綿毛のように柔らかな髪は私の直毛とは違っていつまでも触っていたかった。
「ふふ、くすぐったい」
 私が念入

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12/19 お揃いだらけ

12/19 お揃いだらけ

「ねぇ、みてみて。可愛い手帳買っちゃった。」
 えらく上機嫌でゆいさんが私に見せた手帳。それを見て私は目を瞬かせた。
「まって、私も今日、同じの…」
 鞄から同じ手帳を取り出した。私たちは目を見合わせると思わず吹き出した。
「最近別々に買い物してるのに同じもの買ってること多いわよね」
「ほんと…無意識に好みが似てきちゃったのかな?」
 つい先日は同じボールペンを買ってきていたばかりだった。職場が違

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12/18 あなただけ

12/18 あなただけ

 ゆいさんが私の頬を撫でる優しい手が好きだ。いつも壊れ物でも愛でるようにそっと甘く撫でてくれる。そんな風に触れられるのは初めてかもしれない。どんなに私のことを大切に思ってくれているか、その柔らかな指先から伝わってきた。
 ゆいさんからはじまったこの関係だったけれど、今ではゆいさんがいない生活は考えられなかった。そんなことはないとうぬぼれているけれど、もし浮気をされても一度なら許してしまうかもしれな

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12/17 めかし込めば甘い

12/17 めかし込めば甘い

 私は駅前のビルの入口に立っていた。今は染めていない自然な黒髪ボブに暗めの赤いベレー帽。普段あまり履かないロングスカート姿で、人を待っている。
 外でのゆいさんとの待ち合わせはいつも特別な感じがした。そして今日は私にしては少しおめかしをしてきたのでどこかくすぐったい。
「まだかな…」
 小さく呟いて行き交う人々に視線を向ける。ゆいさんらしき人影を見付けると急にほっとして小さく手を振った。それに気付

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12/16 甘い心音

12/16 甘い心音

 疼くような甘い心音が、聞こえてしまいそうだった。
 私はゆいさんの腕の中で静かに目を閉じる。柔らかな胸元に顔を埋めて、両腕をゆいさんの背中へと回した。
 この時間が好きだった。大好きな人の存在を0の距離で感じられる。
とくん、とくん、とどちらの心音かわからない小さな鼓動が徐々に重なり合って同じ音を奏で始める。まるでひとつに溶け合うような甘美な時間だった。
「ゆいさん」
「ん?」
「好き」
「うん

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12/15 嫋やかな魔法

12/15 嫋やかな魔法

 仕事がうまくいかなくて落ち込んでる時だった。口数少なくぼんやりとソファーに座っているとゆいさんがあったかいココアも持ってきてくれた。それをサイドテーブルにこつんと置いたと思うと私の背中を手のひらで優しく撫でてくれた。
 私は言葉にならなくて、でもすごくあたたかくて、ほっとして、のどのつかえが取れるような感じがした。
「おまじない。」
 ゆいさんがそっと口にした。その声はどこまでも優しかった。
 

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12/14 二人で作るルール

12/14 二人で作るルール

 ゆいさんと暮らすことになってすぐのことだった。ふたりでお茶をしながら話しているとごく自然な流れでゆいさんが口にした。
「同居のルールなんだけど、」
「あ、はい。」
 私は改まって姿勢を正した。
「そんな改まらないで。でもこういうのは些細なことでも大切だから最初にちゃんとしておかないとなし崩しになっちゃうから」
 その通りだと思った。私は住まわせて貰えるだけで御の字だったので家事でもなんでも出来る

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12/13 雨音

12/13 雨音

 雨の中上機嫌でお気に入りの傘を眺める。先日の暴風雨で傘が壊れた後、ゆいさんと一緒に買いに行ったお気に入りの傘。その傘をさせるのが嬉しくて、前より少しだけ雨の日が好きになった。
 急な雨で傘がないとゆいさんから連絡があった。私は買ったばかりのお気に入りの傘で迎えに行く、と返事をした。手にはゆいさんの傘をさげている。
 待ち合わせの場所で落ち合うとゆいさんは嬉しそうに手を振って「ありがとう」と微笑ん

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12/12 隣で見る夢

12/12 隣で見る夢

 ゆいさんの隣で睡魔に負けてうとうととしていると不意にゆいさんの声が耳に届いた。
「はるか」
 とっくに眠っていると思っていた私は驚いて目を開ける。
「ゆいさん?」
 名前を呼んでも返事はない。どうやら寝言だったようだ。どんな夢を見ているんだろう。暗さになれた目でぼんやりと見えるゆいさんの寝顔を見つめながらなんだか嬉しさが込み上げてひとり笑顔になってしまった。
 夢の中でも一緒に居るなんて、こんな

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12/11 スイッチを押す吐息

12/11 スイッチを押す吐息

「まっ…、ちょ、ゆいさんっ…!」
 今日は早めに寝ようとふたりでゆいさんのベッドに入った直後だった。不意にゆいさんの手がいたずらに私の太ももを撫でた。私は小さく吐息を零して脚を揺らしゆいさんの手を掴みながら逃げようと腰を引く。
「待たない。」
 はっきりと口にするゆいさんの声はいつものトーンではなかった。ゆいさんは私が太ももが弱いのを知っている。くすぐったさと何かが混ざった妙な感覚に脚を震わせなが

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