アジカン、STUTS、ベボベ、三者三様のステージから受け継がれた表現のバトン
ポップカルチャーは参照(レファレンス)と引用によって続いてきた文化と言われている。あるアーティストの作品が別のアーティストやリスナーへ影響を与え、そこから新たな表現が生まれ、また次の世代へと受け継がれていくのはとても素晴らしいことだと思う。
このnoteでは最近自分が参加したライブの中で、ステージ上で表現のバトンが受け継がれる素晴らしい瞬間を見せてくれた3組のアーティストのライブを紹介したい。
世代とジャンルを越えた繋がりを示したアジカン横アリワンマンライブ
まずは10/27に行われたASIAN KUNG-FU GENERATIONの横浜アリーナ公演。これまでNANO-MUGEN FES.やNANA-IRO ELECTRIC TOURなど、アジカンを通じて様々な音楽を繋いできた会場。今回は今年リリースしたアルバム『プラネットフォークス』を提げた全国ツアーの終盤の舞台に選ばれた。
ROTH BART BARONの三船雅也や羊文学の塩塚モエカなど、アルバムに参加したゲストアーティストが集結した特別な夜。その中でもハイライトとして挙げたいのが、アンコールでアルバムの楽曲「星の夜、ひかりの街 (feat. Rachel & OMSB)」がライブ初披露されたシーン。
chelmicoのRachelとSIMI LABのOMSBがラップで参加したこの曲は、人から人へ表現のバトンが渡って音楽シーンが連なっていることの現実と希望が綴られた曲。
後藤正文(Vo/Gt)は育ちや価値観は違えど、音楽の鳴る場所においては同じフィーリングを共有出来る、その奇跡的な瞬間の重要性を今回のツアーのMCで度々語っていた。
「星の夜、ひかりの街」で見せた、2人のラッパーとバンドがそれぞれにリスペクトを向けたパフォーマンスはまさにゴッチのMCを体現していた瞬間。ジャンルと世代を越えて表現のバトンが渡っていることをこの眼で確認し、アジカンが活動初期から歌ってきた「繋がり」というテーマに新たな意味をもたらしたライブだった。
ラッパーとの相思相愛な繋がりが熱狂を巻き起こしたSTUTSワンマンライブ
続いてピックアップするのが11/11にLINE CUBE SHIBUYAで開催されたSTUTSのワンマンライブ。
昨年のドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」の週替わりの主題歌を担当し、現在放送中の月曜ドラマ「エルピス-希望、あるいは災い-」の主題歌を務める音楽集団、Mirage Collectiveを指揮していることで話題を集めているSTUTSだが、今年の10月に3枚目のアルバム『Orbit』をリリースし、今回のライブはアルバムリリースツアーの後半戦。
先述したアジカンと同じく、アルバムに参加した多くのアーティストがゲストに名を連ねるスペシャルな布陣で届けられた。
「One (feat. tofubeats)」では、本来歌うことを専門にしていないtofubeatsとSTUTSの2人によるマイクリレーを見せ、目玉はフィーチャリングに8組ものラッパー/シンガーの名前が刻まれた新曲「Expressions (feat.Daichi Yamamoto/Campanella/Ryugo Ishida/北里彰久/SANTAWORLDVIEW/NENE/仙人掌/鎮座DOPENESS)」の再現。
各々がリリックに刻んだ表現することへの想い、あるいは表現せずにはいられない想いがステージ上で連なり、マイクが渡るごとに熱量を帯びていく光景は圧巻だった。
終盤にはバンドセッションに乗せてゲストアーティストが次々とフリースタイルを披露する(STUTSも)というライブならではのレアな一幕も。心地良いビートに身体を揺らす以上に、次々と繰り出される言葉の数々に心を揺さぶられた夜だった。
3人で表現する強いこだわりを感じたBase Ball Bear3度目の武道館
最後に取り上げるのは11/10に日本武道館で開催されたBase Ball Bearのワンマンライブ。実に10年振り3度目の武道館公演、2021年の11/11に結成20周年を迎えたバンドにとって、アニバーサリーイヤーの最終日に行われたメモリアルなステージ。
バンドはこの10年間でメンバーの脱退を経験。3ピースバンドとして体制を再構築していく中で強靭なアンサンブルとバンドで音を鳴らすことのピュアな喜びを獲得していった。
この日演奏されたどの楽曲にもそんなバンドの歩みが凝縮されていたのだが、ここではライブの後半に披露された「The Cut」を取り上げたい。
RHYMESTERの2人のラップをフィーチャーした2013年リリースの楽曲。ただ近年のライブでRHYMESTERがゲストで登場することはほぼなく、先述の通りリリースからメンバーが脱退したこともあり、当初は6人で披露していた楽曲を半分の3人で披露していることになる。
自分が初めて3ピースになったBase Ball Bearのライブを観た時に最も衝撃を受けたのもこの曲だった。小出祐介(Vo/Gt)のRHYMESTER顔負けのラップと関根史織(Ba)、堀之内大介(Dr)の骨太なリズム隊の演奏がグルーヴしていく様は、3ピース以降の彼らの多くのライブでハイライトを飾ってきた。
5月に行われた武道館の前哨戦ともいえる日比谷野音でのライブは様々なジャンルのゲストアーティストを迎え入れた内容だったが、この日は3人で節目のライブをやり遂げることへの強いこだわりを感じた。
また武道館のステージでは披露されなかったが、小出が20年に渡るバンドの歩みをラップする「EIGHT BEAT詩」という楽曲がある。
このリリックは、2010年に初めて武道館のステージに立ったが、全く手応えを感じることが出来なかった小出が当時のディレクターに言われた言葉。
ライブのMCで小出はキャリアを振り返り「ファンをふるいにかけてきた」と話していたが、それ以上に確実に誰かの手に渡る表現を続けてきたからこそ、3度目の武道館はバンドにとって過去2回より遥かに手応えのあるライブになったのではないだろうか。
アーティストが差し出した表現のバトンは、その音楽を体験した1人ひとりにも向けられている。自分も表現とまでは行かずとも、作品やライブから受け取った言葉やフィーリングが日々の生活の実践に少なからず宿っている。そんなことを改めて感じさせられた3組のライブだった。