【AOTY2020アドベントカレンダー Day14】 Disclosure 「ENERGY」
2020年の8月、外出自粛も緩和されて一時の閉塞感からは解放されたが、静かな音楽を聴いて暑さを落ち着けていた。しかしロックフェスのない夏はどうも物足りない。そんなタイミングでロックのダイナミックな高揚感をもたらしてくれたのがキラーズの最新作だった。それでもなお物足りなさがあったとすれば、だだっ広い屋外の空間で誰の目も気にせず踊れる自由が今年の夏は無かったということ。部屋でお洒落な曲を流して少し身体を揺らしてみるのも心地が良いものだが、頭を空っぽにしてハイになれる感覚とは程遠い。
そんな中、最もその感覚に近づけたのは、8月下旬にオンラインで開催されたフジロックのアーカイブ配信だった。オンラインライブも普及していく中"画期的な演出が〜"とか"こんな時代だからこそ音楽を鳴らす意味〜"みたいなことをどうしても考えてしまっていたけど、時期もジャンルも言語も異なる様々な名アクトを観て、ただひたすら良い音楽を浴びて楽しむというフェスティバルの醍醐味を取り戻すことが出来た気がする。中でも圧巻だったのは昨年のグリーンステージのヘッドライナーを務めたケミカル・ブラザーズのアクト。ダンスアンセムに酔いしれるオーディエンスの光景と共に画面越しにブチ上がっていた。
その翌週、同じくイギリスのダンスミュージックデュオであるディスクロージャーがダンサブルに振り切れたアルバムをリリースしたのは個人的にかなりホットトピックだった。
雄大な自然を背景にしたジャケットに"エナジー"というタイトル。アッパーかつグルーヴィなリズムが滝壺のようにとめどなく溢れ出す。これならダンスフロアのパワフルなエネルギーをどこにいても体感出来る、と言わんばかりの仕上がりだ。
スタイリッシュなダンストラックを彩るゲストボーカルも世代や国籍を問わずバラエティに富んだラインナップ。3曲目の「My High」では勢いに乗るイギリスの若手ラッパーslowthaiの"俺のハイを邪魔しないでくれ"と繰り返すフックが抜群の切れ味を誇る。
4曲目の「Who Knew?」では少し勢いを落としたクールなトラックに、シカゴのヒップホップシーンを担うMick Jenkinsがメランコリックに揺らめく歌声を聴かせる。続く「Douha (Mali Mali)」は曲名の通りマリの女性シンガーFatoumata Diawaraを迎え、キャッチーなアフロビートで軽快なステップを誘う。
後半にかけてもダンサブルなエネルギーは衰えず、タイトル曲「ENERGY」ではリズミカルなラテンのフレーバーを振り撒く。様々なジャンルや国の音楽を横断しながらも、それらをダンスミュージックという直感的なスタイルで放つことで、言語の壁を無視して音楽がもたらす高揚感へとグイグイ導いていく。この作品から得られるパワーは全世界共通の感覚なのだ。
昨年のケミカル・ブラザーズに続き、ディスクロージャーのローレンス兄弟もこの強烈なエナジーを提げてフジロックのステージに立つ予定だったが、止むなく来年以降に持ち越されてしまった。エネルギッシュなビートが夜のダンスフロアや広大な大自然に鳴り響く時を心待ちにしながら、誰かが言ってたけど今はうちで踊り狂おう。
12/1〜12/25にかけて2020年のベストアルバムを毎日1枚ずつ発表していきます。