それでも花は咲く

ask:ソメイヨシノをテーマに詩または散文を。 ソメイヨシノと桜という言葉は使用しない。 散文の場合400文字まで。

手帳を眺めていると、既視感があった。

焦がれるように待ち望んだツアー、そのスケジュールがまるで、春の花の開花予想に見えたのだ。

花は札幌から咲き始める。

そこから前線は南下して大阪へ。翌週には静岡に。ゴールデンウィークの頃、花はやっと福岡に咲く。その頃の福岡はへたをすると夏日で、本物の枝はきっと薄紅から緑に生まれ変わっているだろう。

続いて名古屋、仙台、広島へと前線は移動し、そのたびに散るはずの色がわたしたちの心を恋に染めていくのだ。

そして梅雨の季節。

花は東京ドームで満開に咲き誇る。

それまでに通った場所でたくさんのものを拾い集め、日本中を薄紅に染めながら、ーー誰かの心を恋に染めながら、移動した糸は縒り集まって最後に世界を染め変えるのだ。

花は散るために咲くのだろうか。

音は消えるために鳴るのだろうか。

それでも花は咲く。

だれかの心を、しあわせで満開にするために。

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