アスパラガス

ask:アスパラガスにわくわくする作文おねがいします

十萌は絵に描いたように眉をしかめて腕を組んだ。なんだこれ。

「なんでアスパラ…」

先日結婚した友人から届いた荷物には、なぜかアスパラガスが入っていた。個人的にお礼としたかったのだろうラッピングされた小物などの上にひと束、ちょこんとかわいらしく(そう、わざわざピンクのリボンで結ばれて)載ったそれはどう見ても生のアスパラガスだった。

仕事のことを考えたのかちゃんと休日に届く指定になっていたのだが、……いや、そういう問題でもなく、もし受け取れなかったら…

「くさっとったやないかい…」

思わず想像してげんなりしてしまった。

十萌の友人はたまにどうかしてる。それらの言動はおおよそ好意的な感触のものばかりだったが、さすがにこれは……と疑問をぶつけようと携帯を取り出した。が、ふと思い直す。もう一度まじまじと春野菜を見た。うん、食べごろ…なんだろうな。と、ついそんなことを思ってしまう艶のある黄緑色を見ていると、ふと何かがよぎった。十萌は握っていた携帯を握り直した。「ブーケトス逃した?知らないよー」と、あの日あの子はわたしに向かって笑っていたのではなかったか。

携帯のブラウザを開き、検索にふたつ、単語を入力した。はい、検索。……おそらく十萌の勘は当たっている。結果が何にせよ、この行動は"当たり"だと確信して彼女は画面遷移を待った。すぐにいくつかの検索結果が表示され、彼女はそのうち読みやすそうなひとつを選んだ。

無敵。勝利の確信。耐える恋。そして、普遍。

これらの言葉が並んだ画面を見て、やはり、と思った瞬間、十萌は思わず笑ってしまっていた。いや、バカだよね、バカだよなー、ブーケの代わりとか、やっぱりバカだ。どうせスーパーで買い物をしているときにでも思いついたのだろう。ほんともう、アスパラガスの花言葉だなんてわたしじゃないと気づかないよ、と、思うほどに笑いが止まらなくなってしまった。笑いすぎて目尻に涙がにじんだ。

ひとしきり笑って、十萌はやはり携帯の受話器マークを押した。番号を選んで耳に当てて呼び出し音が鳴ること数回、耳馴染みのあるーーありすぎる友人の声が能天気に聴こえた。携帯を持たない手を伸ばしながら、十萌は言った。

「ねえ奥さん、アスパラガスのおいしい食べ方、教えて?」

触れたアスパラガスは、水気を含んでしっとりと、今度こそ彼女の手に収まって春の匂いを届けていた。

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