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「ちゃんと手洗いしろ」と言っただけなのに精神病院送りに?
●「ちゃんと手洗いしろ」と言っただけなのに精神病院送りに?
今回のエピソードは食とは全く関係ないのだが、たまたま感染症について調べていて知って、どうしても共有したくなったのでシェアする。
昔、ニコニコ動画の料理動画で、調理前の食材を洗わないうp主に対し「●●洗った?」と煽るという流れが半ばネタと化し、「洗った厨」などと呼ばれていたのだが、「洗った厨」として煽り倒された結果精神病になってしまった19世紀ヨーロッパの医師がいる。
時は1840年代、オーストリアの首都にあるウィーン総合病院では産じょく熱で亡くなる妊婦が大勢いて、しかも医師や医学生が担当していた第一産科の方が助産婦が受け持っていた第二産科よりも死亡率が高かった。そのあまりに高い死亡率に妊婦たちも必死で「第一産科だけは行きたくない!!」と懇願したり、中には病院に行く途中で生まれたと言って院外で出産したものもいたという。
1844年からこの病院で働き始めたドイツ系ハンガリー人のセンメルヴェイス・イグナーツはこれについて不可解に思い原因を調査していたのだが、産じょく熱で亡くなった妊婦の死体を解剖した際に誤って手を傷つけた同僚ヤコブ・コレチカが同様の病気で亡くなってしまったことから、「患者の死後死体を解剖した医師がそのままお産を手伝うことでその手や道具についた『死体粒子』が産じょく熱を引き起こしているのでは」と考えた。実は当時、こうした病気が細菌によって引き起こされているということはまだ知られていなかったのだ。
これに対する単純な解決策として、センメルヴェイスはお産に携わる医師や医学生たちに死体解剖の後にさらし粉(次亜塩素酸カルシウム)を使って手を洗うように指示、その結果劇的に死者数を減らせることを発見した。
しかし、当時の病理学会ではセンメルヴェイスの「手洗い法」は全く支持されないどころか嘲笑され、白血病を発見した権威ルドルフ・フィルヒョウも彼に反対したらしい。
国内外から批判と攻撃の嵐にさらされたセンメルヴェイスは精神を病み、精神病院に強制入院させられた挙句脱走を試みた際に受けた傷がもとになって死亡した。
現在では「消毒の父」として名誉回復がなされたものの、悲劇としか言いようがない彼の人生は我々に人類の科学の発展の最大の敵は人類自身であると教えてくれる。