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小皿一枚分の余裕を

娘の離乳食が始まって、3ヶ月あまりになる。最初は慣れない固形物に戸惑っていたようだが、今ではすっかりごはん大好きっ子になり、ミルクよりも食いつきが良い。残さず食べるどころか、食後は足りないと文句をいうくらいだ。子どもによっては離乳食をなかなか食べてくれず苦労すると言う話も聞くので、その点うちは母親に似て食いしん坊に育っているようだ。

そんな食いしん坊の離乳食生活で苦労するのは、匙を運ぶタイミングである。なにせ早く食べたいので、少しでも遅いとテーブルをバンバン叩いて催促する。熱々の離乳食、最初の一口は特に適温に冷ますのに時間がかかる。一生懸命にフーフーと冷ますのだが、これがなかなか大変で、ミュージシャンの肺活量を持ってしても頭がクラクラするくらいである。もう冷めただろうと焦って口に運ぼうものなら熱いと泣かれてしまい、かといって遅くなってもやっぱり泣かれてしまう。困ったなぁと思って2ヶ月ほどたった頃、はたと思いつき、何もない小皿に熱々のお粥を一旦取り分けて与えてみた。すると最初の一口からちょうど良い温度になり、お粥とおかずをパレットのように混ぜながら与えることができる。ちょっとしたアイディアだが、今まで一生懸命フーフーしていたのが馬鹿らしくなってくるくらい、ストレスがなくなった。何事もほんの少しの知恵や工夫でどうにかなってしまうものだなぁと、小皿1枚分の余裕ができた心でぼんやりと考える。

ところで、松本市は工芸・クラフトの街として有名なのはご存知だろうか。娘が毎日食事に使っている木製のスプーンは、松本市から贈られた職人手作りの工芸品である。松本市で子育てしている世帯に必ず贈られるものらしく、人生最初の一口からなんと贅沢だろうか。

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そんな松本市の5月は「工芸の5月」と銘打って、街のいたるところで工芸品の展示や販売会、ワークショップなどが行われている。爽やかな信州の初夏の陽気に誘われて、たくさんの人で賑わう季節だ。そして、工芸の5月の目玉イベントといえば最終週に行われるクラフトフェア。あがたの森公園に県内外の陶芸、木工、ガラス、織物などの工芸品のテントが並ぶ。今年は3年ぶりの開催とあって、特に注目度も高かったようだ。娘を夫に預け、私も一人で初参戦してきた。

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とにかくすごい熱気!飛ぶように売れていくお皿たち。決して安い買い物ではないはずなのだが、3年ぶりともなればお客さんの気合いも違うのだろうか。職人さんから直接購入できるとあって、素材や製作過程など、お店の方と熱心に話し込むお客さんも大勢見かけた。私は蕎麦猪口が欲しかったのだが、あいにく手頃なものは見つからず。代わりに素敵なお皿とグラスを見つけたけれど、うーんとしばらく考えて手ぶらで会場を後にした。独身時代ならきっと衝動買いしているところだけど、収納スペースや娘に割られるリスクなど、家庭を持つと買い物ひとつでも色々考えてしまう。蔵造りの街並みを自転車を漕ぎながら、それでもやっぱり小皿1枚分の余裕くらい欲しいよなぁと心の中で呟いた。

松本市の工芸の5月とクラフトフェア、来年も無事開催されますように。
あなたも是非一度足を運んでみてください。


sugar me
寺岡歩美

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