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『The Blues B.B King Loved』を終えて【選曲のエピソード編】
御来場の御礼
(撮影:Komyu)
2月2日日曜日、目黒Blues Alley Japanでの公演にお越し下さった皆様、誠に有難うございました。改めて、心より感謝申し上げます。寄せられた沢山のご感想の満足度の高さに、ほっと胸を撫で下ろしております。曲を体に入れようと一人向かっていた約220日の日々が、一瞬にして報われたような気持ちでおります。
2024年夏に『In A Spirit Of KOKO TAYLOR』を終えて直ぐ、準備に取り掛かった『The Blues B.B King Loved』。Blues Alley Japanでのブッキングは一年前から決まっていました。自己満足に過ぎませんが、シカゴ・ブルースの女王Koko Taylor、ブルースの王B.B Kingという順での”歌うドキュメンタリー”の流れは、すんなりと自身の中でショウの絵面が描きやすかったです。ショウ冒頭で「男性であるB.B KingのBluesを歌いたいと思う、女性シンガーは少なくありません」とMCにて話しましたが、今回の曲選はまずここに重きを置きました。1950年代から1960年代こそがB.Bブルースの黄金期。だけど、女性の私が歌ったとして、自身の中でなるべく消化出来る歌詞の内容を選ぶには?という観点からすると、1970年以降の楽曲が多くなりました。歌詞を全部自身の中に入れ、自分の声が良く鳴るキーを何度も試した上で、歌の世界を体現することに拘りたいと常々思っています。70年以降、様々なアーティストとコラボレーションすることでBluesの可能性を拡げていったB.B。「人種を特定せず、男女間のいざこざだけでなく、誰にでも起こりうる日常的な問題もブルースなんだ」…私自身は、そんなふうにブルースを”人々の歌(People music)”として世界に広めた所に深い感銘を受けました。Bluesやこのジャンルに馴染みがなくとも、「楽しい!」と近くに感じていて頂けることが、一つ私の役目として思っていますから、今回のショウにおいてもそんな思惑はしっかり果たせたのではと思っています。
では、以上の点からの選曲の想いを演奏順にて綴ってゆきます。
選曲のエピソード[First set]
1.Never Make A Move Too Soon
作曲Joe Sample・作詞Will Jennings。1978年のアルバム『Midnight Believer』に収録、The Crusaders『Live At Royal Festival Hall』でのヴァージョンを参考にアレンジしました。女性歌手では、アーネスティン・アンダーソンやボニー・レイットがカヴァーしていて、「ブルースを演奏して世界中に愛を振り撒いている唯の男なのさ」という所を「I’m just a woman who sing the blues」なんて歌詞を変えて歌ってみました、ハハ。
2.Why I Sing The Blues
当時バンド仲間に借りた『Live&Well』(1969)での演奏が大好きではあるけど、MCでも言いましたが、あえて女性歌手が歌ったヴァージョンで、ということもあるし、コーラスのお二人がいたこともあり、アリサ・フランクリンのカヴァー(1970)を参照に、コーラスの歌詞やエンディングをアレンジしてお送りしました。
3.Please Send Me Someone To Love
B.Bのアイドル、パーシー・メイフィールドの曲(1950)で初録音は1965年『Confessin’ The Blues』。私にとっては、やはりバンド仲間が貸してくれたレーザー・ディスクでの『Live B.B King&Friends』(1987)でのグラディス・ナイトとのデュエットが印象深く、好きなアルバム『The Deuces Wild』(1997)でのヴァージョンと合わせて、歌のフレージングなど熟考しました。大好きなアーマ・トーマスや、ダイナ・ワシントン、ペギー・リーなどの女性シンガーも歌っています。「憎しみがなくなれば平和は訪れる。人間でない限り、この恐ろしい罪(戦いや差別)には終止符は打てない」正に、今の時代に響くべく歌だと思います。
4.Humming Bird
レオン・ラッセル作で初収録は1970年。1997年にはディオンヌ・ワーウィックと、2005年にはジョン・メイヤーとデュエットしています。ここではやはり、女性の目線が交差しているディオンヌヴァージョンで。このヴァージョンは、いわきでアマチュアでブルースを歌っていた30年前に歌ったことがあるので懐かしかった。悠歩のリッチな響きの歌声と、TOMOMIの鳥の囀りをイメージしたコーラスがよりエレガントでオリジナルな雰囲気を醸し出してくれた。
5.Rock Me Baby
B.Bは1964年に録音、バリバリ男性の曲ですが、エタ・ジェイムスなど女性シンガーも(女性サイドの気持ちで)歌っています。ライヴでは、B.Bのライヴでのコール&レスポンスの一例でお送りしてみました。
6.Same Old Story(Same Old Song)
作曲Joe Sample・作詞Will Jennings『Take It Home』(1979)収録。ランディ・クロフォードのディスコ的なカヴァーが好きではあったのだけど、今回のライヴの流れには何だかハマらない。大分悩んで行き着いたのは、ジョー・サンプルのルーツのあるニューオリンズ、そうだ、セカンドラインで行こう!と思いついて、バンド皆んなで考えてくれたアレンジ。「一方ではあなたに自信を持たせ、一方ではあなたを中傷する。ある人にとってあなたは聖人で、他の誰かにとってはあなたはピエロ。自分に何が出来るのか、しっかり見据えなきゃならない」残されたものにしがみついている場合じゃない….この歌詞、今の時代にドンピシャじゃありませんか?
7.The Blues Come Over Me
作曲Joe Sample・作詞Will Jennings『There Is Always One More Time』(1991)収録。歌詞がより詩的で且つスタイリッシュで、それぞれのライフスタイルを例えつつ、表があれば裏(ブルース)もある的な比喩法が私にはぴったりはまるのです。
曲のエピソード [Secound Set]
1.Caught A Touch Of Your Love
サックス奏者グローヴァー・ワシントンJr.のアルバム『Strawberry Moon』(1987)での客演の一曲。時代と共に変化を辿るB.Bを称えての選曲。実は、ダイアン・シューアとのB.Bとのデュエットアルバム『Heart To Heart』が好きでそこからと思っていたのですが、しっくりこない。そんな時ダイアンがカヴァーした『Caught〜』が耳に入ってきて…女性が歌ってもバッチリな歌詞だ!ということで、選んだのでした。かつて自身では80年代のB.Bは毛嫌いしていたのですけれど。
2.Thrill Is Gone
世間一般でのB.Bといえば!ヒット曲であり、1970年にグラミー賞を受賞した名曲。ここで Shun Kikutaさんが客席から登場!このアレンジはShunさんが2000年にシカゴのブルース&ソウルシンガー、ネリー・トラヴィスをプロデュースした時のアルバムでの収録ヴァージョンです。私は当時、「こんなブルースアルバムを作りたい!」と強い憧れの念を抱いており、このヴァージョンでお送り出来たことがもう感無量!「客席から弾きながら登場して下さい!」とのお願いも容易くOKしてくれたShunさん。会場にいた全員が心奪われていました。
3.How Blue Can You Get?
1964年録音のB.B定番のスロー・ブルースであり、絶対的な男性目線の曲で何としても女性の目線には直らない。けれど作詞したのは、ジューンとレオナードのフェザー夫妻だという。では、ブレイクの部分で出てくる女のセリフで、思い切りワガママな女を演じればいい。そんな気持ちで歌いましたとさ。映画『Blues Brothers 2000』で架空グループ「ルイジアナ・ゲーター・ボーイズ」でのこの曲の演奏で、ココ・テイラーが歌った歌詞を挟みつつ。
4.To Know You Is To Love You
スティビー・ワンダーと当時の妻シリータとの共作。B.Bは、1974年にザイールで行われたモハメド・アリとジョージ・フォアマンとの世紀の一戦
『キンシャサの奇跡』前に行われた特別コンサートで、この曲の名演を残しています。Shunさんアレンジによる今回では、尊敬する二人のシンガー、悠歩とTOMOMIに歌ってほしいと懇願。卓越した歌唱力を響かせ、客席を大いに湧かせてくれました!
5.Days Of Old
1960年録音。男の救い難い甲斐性を女が上から目線で示唆しているような感じというか、どことなく滑稽でありながらエネルギーに溢れているこの歌。2000年発売の『B.B King&Eric Clapton: Riding With The King』でのヴァージョンがずっと演ってみたかった。永遠のBlues少年、KBとShunさんが揃ったー!という事で熱く楽しい展開になりました。
6.We’re Gonna Make It
『Blues Summit』(1993) での、アーマ・トーマスとのデュエットヴァージョンでお送りしました。これも「Shunさんに歌って頂けませんか」と厚かましくもお願いして「良い曲だよね!」と快諾下さり、実現したのでした。「生活における不当な扱いに屈せず、愛を持ってお互いを支え合っていこう」と歌われるこの歌は、B.Bはライヴで良く歌っていたようです。「もし私が周りに(自分が何が出来るかと)看板を掲げるとするならば、”耳の聞こえない人、口の聞けない人、目の見えない人を助ける”って書くわ」という所に深い深い想いを感じます。
7.Ain’t Nobody Home
『B.B King In London』(1971)収録、1997年『Deuces Wild』でダリル・ホールを招いて再録しています。男の身勝手さに女性がほとほと愛想が尽きて出て行き、”家に誰もいない、戻ってきてよ”と懇願している男性の歌。これは、若き日のボニー・レイットも歌っており、「何度、あなたに家に帰ってきて欲しいとお願いしたことか。どんなにあなたを愛していたことか。今更許して欲しいと言っても、もう家には誰もいないわよ」と女性目線で歌ってみたのでした。
Encore: Everyday I Have The Blues
1955年録音。世界中で歌われているこのブルースの大定番曲は、もはや共通言語ではないでしょうか。
2019年ブルース・ファンディション財団によって、この曲は「Classic Of Blues Recording」としてようやくにブルースの殿堂入りを果たしました。
[The Blues B.B King Loved]
1st
1. Never Make My Move Too Soon
2. Why I Sing The Blues
3. Please Send Me Someone To Love
4. Humming Bird (duet w/ Yuho)
5. Rock Me Baby
6. Some Old Story, Some Old Song
7. Blues Come Over Me
2nd
1. Caught A Touch Of Your Love
2. Thrill Is Gone
3. How Blue Can You Get?
4. To Know You Is To Love You (w/Yuho,TOMOMI)
5. Days Of Old
6. We’re Gonna Make It (duet w/ Shun Kikuta)
7. Ain’t Nobody Home
En) Everyday I Have The Blues
with backing vocals: 1-1~1-7, 2-4~En
with Shun Kikuta: 2-2~2-6, En