お客さんがキャバクラに通い詰めるワケ
難波の夜。大衆焼き肉屋での夜食。
まだキャバ嬢同士のよもやま話は続いている。
「しかし、Mariちゃんのお客さんは、いいお客さんが多いよね」
「そう? でも、みんな付き合ってほしい、愛人になってほしい、とかいろいろオファーをされるけど、みんなといい距離感を保ちつつ、店に来てもらうのは結構大変よ」
Mariちゃんでも大変なんだと思ったユウカは、自分がお客さんから聞きかじった話をしてみた。
「それってさ、いっぱい選択肢があったら逆に選べないっていう話?」
「なにそれ?」
ユウカはそこで有名なジャムを6種類置いた店と24種類置いた店の売上の違いの話をした。(実験の結果は6種類だけ置いた店の売上の方がよかった)
あははは、ユウカさん、そんなの信じてるの? 少なくとも私にはあてはまらないわ。
そもそも、一つしか選んじゃいけないっていうのは思い込みでしょう? 自分の家の台所にいっぱいスペースがあってお金も潤沢にあったら24種類買えばいいじゃない。私がお客さんをたくさん抱えているのは、選ぶ必要がないから。ちなみに選ぶのはお客さん側ね」
「あ、そういえば、そうだった……」
ユウカはMariちゃんの饒舌トークの中に、たまに混じる真実に思わずハッとすることがある。それでも、少しだけ残った違和感をMariちゃんに訊いてみた。
「でもさ、一人だけにお客さんを絞った方が気が楽じゃない?」
「そんなことはないわよ。私たちは夜の仕事なの。そこを考えたら、そうするのも相手の為にならないのよ」
「え、なんで?」
「だって、その人に負担が集中しちゃうじゃない。毎日その人に来てもらって、毎日シャンパン入れてもらったら、その人いつか潰れちゃうわよ。そうやってお気に入りのお客さんつくって、毎日通ってもらって、潰れたら他のお客に乗り換えていくみたいな方法をとる子もいるけど、それは人それぞれじゃない? 私にはちょっと向いてないだけ」
ユウカの中にはまったくなかった価値観に「これが夜の世界の常識なんだ」と衝撃を受けた。
「じゃあさ、Mariちゃんはいつもどんな風にお客さんに接してるの?」
「ん~、別に普通よ。朝LINEでみんなに”おはよう”って言うじゃない。
っていっても14時くらいだけど」
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